アルコール度数が高い「ストロング系」と呼ばれる缶チューハイが大人気となっている。コンビニエンスストアに行くと、アルコール類の棚の大部分をストロング系の缶チューハイが占領し、その人気によって缶チューハイ市場はこの5年間で1.5倍に拡大した。
しかし、気になるのは健康面への影響だ。通常の缶チューハイのアルコール度数が6%未満なのに対し、ストロング系のアルコール度数は缶ビールよりも高い7~9%となっている。そんな強いお酒を100~140円(350ml缶、税別)といった安い価格で飲むことができるのだ。
「手軽で安いから」とすぐに酔える強いお酒を飲み続ければ、健康リスクも高まるだろう。そこで、ストロング系缶チューハイの危険性について医師に聞いた。
お酒が強い人ほどストロング系を飲むのは危険?
まず注意が必要なのは、アルコール依存症だ。2017年12月放送の『ニュースウオッチ9』(NHK)が、ストロング系缶チューハイを大量に飲み続けてアルコール依存症と診断された男性の例を報じていたが、近年はストロング系の常飲によるアルコール依存症患者が増えつつあるという。
なぜ、ストロング系がアルコール依存症に結びつくのか。久里浜医療センターでアルコール依存症患者を専門に診ている医師の横山顕氏は、最大の問題は「アルコール度数が10%近いお酒が、缶単位で販売されていること」と指摘する。
「たとえば、瓶で売られている焼酎、ウイスキー、ワインなどは、自分が飲みたい量だけグラスに注ぎ、残りはとっておくことができます。しかし、缶チューハイの場合、プルタブを一度開けると1本飲み切るしかありません。そのため、必要以上にアルコールを摂ってしまう可能性があるのです。当然、アルコールの摂取量が多いほど依存リスクは高まります」(横山氏)
通常の缶チューハイとストロング系のアルコール度数の数%の差は、想像以上に大きい。それにもかかわらず、缶で販売されているので「度数が高いから、半分だけにしておこう」とはならない。しかも、甘みや炭酸特有の爽快感もある。その結果、つい飲みすぎてアルコール依存症の入り口に立ってしまうのである。
そう聞いて「自分はお酒が強いから大丈夫」と思った人は、さらに注意が必要だ。横山氏は、「いくらお酒を飲んでも赤くならず、酔いにくい人ほど、むしろアルコール依存症に気をつけるべき」と言う。
「アルコールから生じる有害物質のアセトアルデヒドの分解能力が強い体質の人は、多量の酒を飲めてしまうために、かえって依存症になりやすいのです。その中にアルコールの分解が遅い体質の人がいて、この体質は血中に長時間アルコールが残りやすく、それがさらにアルコールへの依存性を強めるケースもあります」(同)
アルコールの分解が遅い人は日本人の約3~7%で、一見すると少数派だ。しかし、100万人ともいわれる国内のアルコール依存症患者のうち、約30%がこのタイプにあたるという。「お酒が強いからストロング系をいくら飲んでも大丈夫」というのは、単なる思い込みでしかないのだ。
厚労省の摂取基準を1本で超えるストロング系
一方、お酒に強くない人は量を飲もうと思っても飲めないため、アルコール依存症にはなりにくい。その代わり、ストロング系を飲み続けると別の健康リスクが高まる。そのうちのひとつが、がんだ。
そもそも、ストロング系にどれくらいの量のアルコールが含まれているかご存じだろうか。アルコールの質量をg(グラム)に換算すると、アルコール度数7%の350ml缶で約20g、8%なら約22g、9%なら約25gとなる。500ml缶の場合は、7%で約28g、8%なら約32g、9%なら約36gだ。
厚生労働省は、成人男性の1日のアルコール摂取量の目安を「20g程度」としている。アルコール度数5%の缶チューハイなら500ml缶を飲み干してもアルコール摂取は20gで済むが、ストロング系であれば軽く超えてしまう。
また、「20g程度」はあくまでも目安にすぎない。日本人によく見られる、少量の飲酒で顔が赤くなるような体質の人、女性や高齢者は、それより飲酒量を少なくすることが推奨されている。そうしないと、前述したがんのリスクも現実味を帯びてしまうという。
「愛知県がんセンター研究所が2016年に発表した論文によると、お酒を飲んで顔が赤くなる人が1回46g以上のアルコールを週5日以上摂ると、80歳までに20%の確率で食道がんになると推定されています。この46gというのは、アルコール度数9%の350mlのストロング系缶チューハイ2本分にあたる。お酒を飲んで顔が赤くなる人は、がんリスクについて特に注意が必要でしょう」(同)
元凶は「手軽に強い酒が買えてしまう環境」
このようなリスクを避けるには、ストロング系のような強いお酒を飲まないことがもっとも確実な方法だ。しかし、日本社会では「強いお酒を飲まない」という簡単なことが難しい現状もある。
「日本は、欧米諸国に比べてお酒を口にしやすい環境にあります」と横山氏は指摘する。
「たとえば、居酒屋には必ず飲み放題コースがあり、テレビではお酒のCMが流れ、電車に乗っていてもお酒の中吊り広告が目に入る。アルコール依存症患者は、必ずしも最初から進んでお酒を手にとっているわけではありません。こうした環境のなかでお酒を口にするようになり、いわば受動的に依存症に引きずり込まれてしまうのです」(同)
それでも日本のアルコール依存症患者が欧米より少ないのは、「アセトアルデヒドの分解能力が弱い」という体質に助けられているからだという。
また、横山氏が指摘する「お酒を口にしやすい環境」の最たるものが、コンビニだろう。最初に述べたように、今やコンビニではストロング系がアルコール類の棚の大半を占めている。
「私が診ているアルコール依存症の患者さんに聞くと、多くの人が『酒を飲みたくなるタイミングはコンビニにいるとき』と話します。昔は、いくら飲みたくても時間帯や場所に制限がありましたが、今はいつでも強いお酒を買えてしまう。そこが大きな問題だと思いますね」(同)
民放のテレビ局にとって酒造メーカーは大スポンサーであり、出版社にとってコンビニは販売チャネルのひとつだ。そう考えると、マスコミが大々的に「反ストロング系キャンペーン」を展開することは考えにくい。そのため、この先もストロング系を手軽に飲める環境が大きく変わるのは難しいかもしれない。
もはや一人ひとりが自分の健康を意識するしかないが、お酒に強い人も弱い人も、「ストロング系をたくさん飲むのはリスクが高い」ということは覚えておいたほうがよさそうだ。
(文=喜屋武良子/清談社)