とかく自動車のニューモデルを評論するというと、そのハードとしてのパフォーマンス=性能やユーティリティ=実用性を評論の中心としてしまうことの多い我々の世界だが、久々にソフトとしての性能を語ってみたいニューモデルをドライブした。
それはスズキが2018年7月に、実に20年ぶりにフルモデルチェンジした、ジムニーとジムニーシエラの両モデル。前者は660ccの直列3気筒ターボエンジンを搭載する軽自動車規格のモデル。また後者は1.5Lの直列4気筒自然吸気エンジンを搭載する小型登録車で、ボディーのワイド感を強調するオーバーフェンダーが、外観上の大きな特徴となっている。
ジムニー、あるいはジムニーシエラが自宅のガレージに収まっていたら、自分はそれを使って何をするだろうか。そして新しいライフスタイルをスタートさせるのが、自動車におけるソフトとしての性能だ。そのスクエアな、しかしながら高い機能性を予感させるボディーデザインを見ていると、ジムニー、あるいはジムニーシエラは、現代の世の中に多くある、SUVと呼ばれるモデルの中においても卓越したオフロード性能、そして実用性を発揮するモデルなのではないかと感じて嬉しくなる。これぞ日本の誇る工業製品というのが正直な感想だ。
そう考えたユーザー予備軍は、日本のマーケットに驚くほど数が存在したのだろう。スズキはジムニーが生産される静岡県の湖西工場の生産ラインをジムニー用に増設し、それまでの1.5倍に相当する月産能力を確保したという。参考までにスズキがジムニーで設定した年間目標販売台数は、ジムニーが1万5000台、ジムニーシエラが1200台という数字。現在もなお、納車までには長い時間が必要になる。
この20年間の軽自動車の進化を実感
今回は軽自動車規格のジムニーのステアリングを握ってみた。第一印象は、やはりそのスクエアなボディーから伝わる走りへの期待感。3395×1475×1725mmと軽自動車規格をフルに使った直線を基調としたボディーは、キャビンからの良好な視界を実現し、オフロードでもその機動性は十分に期待できると確信できた。ドライブしたのは最上級グレードとなる「XC」だったが、その乗り心地は1040kgにまで前作比で微増したウエイトが功を奏したのか、素晴らしい落ち着きを見せている。
ジムニーはニューモデルへと進化を果たしたとはいえ、いまだに本格派オフローダーの証ともいえる梯子型フレーム、すなわちラダーフレーム上にボディーなどを乗せる構造を採用している。このフレームそのものの剛性が1.5倍に高められていることが、まずは乗り心地の向上に大きく影響しているのだ。
そしてリジッドアクスル式のサスペンションもボディーも、すべてが前作と比較するとさらなる剛性感を体感できるものになった。スペックシートの上で想像する印象とは異なり、実際に感じる新型ジムニーの進化は非常に大きい。
サイドブレーキの前方にあるトランスファーレバーをシフトすると、ジムニーはその本領を発揮するべく、4WDの駆動方式を選択することが可能になる。今回はオフロードをドライブするチャンスはなかったから、ほとんどの時間を2WDで走行することになったが、それでも走りの安定感そのものに、不満を感じることはほとんどなかった。コーナーでの動きには抜群の安定感があり、これが軽自動車の走りなのかと驚かされたことも何度もあった。
キャビンはやはり軽自動車の限界とでもいうのだろう。そしてエンジンを縦置き搭載したという事情もあってか、近年軽自動車の主力となっているハイトワゴン系のモデルと比較すると、特に前後方向、そして上下方向では余裕は小さく、家族全員でどこかに出かけるための道具というよりも、むしろ男としての自由な時間を独りで楽しむための足として使うというスタイルのほうが、このクルマには似合うような気がする。そのための装備や道具は、後席を倒すとさらに拡大されるラゲッジルームや、その後端のフロアに用意されているラゲッジボックスに収納が可能となっている。
搭載されるエンジンは、658ccの吸気VVT付き直列3気筒。最高出力はこれも軽自動車の自主規制値である64psで、4速ATもしくは5速MTの選択ができる。スズキ・セーフティ・サポートをはじめとする安全装備や快適装備の内容も、このXCグレードならば万全といったところ。
ジムニーは、そして軽自動車は、20年という歳月のなかで、ここまで進化したのかと感動するのは間違いないだろう。ちなみにジムニーに対しての高評価は世界的なもので、先日米国のニューヨークモーターショーにおいて発表されたWorld Car Awardでは、ジムニーは「World Urban Car of The Year」を受賞。市場での人気はますます高まりそうだ。
(文=山崎元裕/フリーランス・モータージャーナリスト)