今年の流行にはTikTokが大きく影響しているようだ。TikTokは、バイトダンス社が運営するショート動画アプリ。ユーザーの年齢層は10代、20代がメインであり、特に10代に高い人気を誇っている。なぜTikTokで次々と流行が生まれているのだろうか。
TikTokに投稿された動画で大増刷へ
出版不況といわれて長いが、思わぬヒットも生まれている。しかも、その背景にはTikTokがあるという。
汐見夏衛さんの『花が咲く丘で、君とまた出会えたら。』(スターツ出版文庫)が刊行されたのは、4年前の2016年7月のこと。ところが、日本出版販売が運営するサイト「ほんのひきだし」の「本屋で今検索されている本ランキング」(2020年6月17日~6月23日)では5位、9月2日~9月8日でも6位に再ランクインしている。2020年6月から3カ月で7万5000部の重版となった背景にあったのは、TikTokだ。
ある読者が「本当に全人類に見てほしい本。もう大号泣どころじゃない。身体中の水分持ってかれる。そして映画化してほしい」という文章をつけて、表紙の絵に音楽をつけた動画をTikTokに投稿していたのだ。この動画は28万いいね、3500コメントを集め、話題となった。その結果、書籍の注文が集まり、大増刷につながったというわけだ。
面白いのは、この動画が結果的に本の世界観を音楽で表現している点だ。動画にはTani Yuukiさんの「Myra」がつけられており、読まなくても愛に関する内容であることが感じられる。
版元のスターツ出版も、YouTubeで販促動画を作ったり、著者のSNSアカウントで投稿してもったりなど、SNSを使った販促は行っていた。読者層に支持を受けるYouTuberとコラボして、書籍オリジナルコンテンツを投稿したこともある。しかし、結果的にはノーマークだったTikTokの投稿が人気につながり、驚いたそうだ。
この動画がヒットし、書籍の増刷につながったのは、投稿者がこの本を純粋に素晴らしいと感じていることが伝わったためだろう。またTikTokにはAI(人工知能)によるおすすめ機能が働いており、ユーザーが好みそうな動画が表示されるようになっていることも影響している可能性がある。
書店でも「TikTokで話題の本フェア」を開いているが、TikTokのロゴを入れたり、書棚にポップを置くことで売れ行きが伸びる傾向にあるそうだ。TikTokは10代に強い支持を得ているため、「TikTokで人気」は魅力的な惹句となるのだ。
音楽の流行の影にもTikTokあり
今年流行した音楽も、TikTokがきっかけとなっているものは多い。2020年にTikTokで流行したワードは「#TikTok流行語大賞2020」としてノミネートされているが、その一つ瑛人の「#香水」はTikTok内で10億再生されており、『NHK紅白歌合戦』に初出場も決めている。
ボーカロイドプロデューサーAyaseとシンガーソングライターikura(幾田りら)2人による音楽ユニットYOASOBIの「#夜に駆ける」はTikTokで5億3260万再生、やはり『紅白』が決まったNiziUの「#makeyouhappy」は同じく5億5560万再生など、TikTokでの人気が音楽のヒットにつながっているのだ。
マイナビティーンズの「ティーンが選ぶ2020トレンドランキング」(2020年11月)によると、モノ部門1位はずばり「TikTok」。コトバ部門1位「きゅんです」はTikTokで流行している言葉であり、ヒト部門1位のNiziUも先述の通り『Make you happy』はTikTokで人気だ。
「#makeyouhappy」人気は、「縄跳びダンス」と呼ばれるその振り付けの面白さの影響が大きい。踊ってみたくなるダンスのため、芸能人など多くのユーザーが曲に合わせて踊った動画を投稿していたのだ。TikTokではこのように、「歌ってみた」動画や「踊ってみた」動画が投稿されることで、人気に火がつくことは多い。
アライドアーキテクツの「新型コロナがもたらした新しい生活様式における消費者のSNSの利用実態調査」(2020年8月)によると、新型コロナウイルス感染拡大以後、SNSを利用する時間が「すごく増えた」「増えた」は合わせて34%に及ぶ。特に若者世代はSNSの利用時間が伸びており、TikTokの利用も増えている。それによってTikTokの影響力が高まっている可能性は高い。
TikTokでの流行を知ることは、若者たちにおける流行を知ることでもある。興味がある方は、ぜひチェックしてみてはいかがだろうか。
(文=高橋暁子/ITジャーナリスト)