●社員にとっては、働きやすくて良い会社
鈴木 「ARROWS Z」では目覚ましの不具合もありました。目覚ましアプリは朝に自動でバージョンアップするようになっていたのですが、バージョンアップすると不具合が起きたのです。朝、目覚ましが鳴ろうとすると、アプリケーションエラーで落ちました。その結果、目覚ましが鳴らないから、全国のARROWSユーザーが遅刻したというのです(笑)。私自身も遅刻しました。ネットの掲示板では「どんなサイバーテロだよ」なんて書かれてましたから。それに対して、KDDIは最初「把握していない」の一点張りだったのですが、OSのAndroidを作っているGoogleは、ソフトをダウンロードするページで、バージョンアップしたら目覚ましが止まるという事実を公開したのです。にもかかわらず、KDDIは知らないと言い張っていました。
–メーカーやアライアンスを組んでいる企業との連係も、うまくないですね。
鈴木 こんなことは日常茶飯事になっているので、社員も障害に慣れっこになっている。例えば、富士通が「障害が起きている」というメールを送っても、受け取るほうのKDDI側の担当者は1日に何百件もメールを受けているから、気づくのが遅くなったりすることもあるでしょう。営業も、顧客にすぐに連絡しなければという意識がない。「知らない」と言っていれば、お客さんは気づかないものだと思っている。
そんなことを言い張っていても、今はSNSや2ちゃんねるへの書き込みはもちろん、YouTubeに不具合を検証する動画がアップロードされてしまうし、カスタマーセンターとのやりとりも録音されて公開されてしまう。通信会社なのに、そういうことに無頓着すぎる。
–社員は、そういう体質に疑問を持たないのでしょうか?
鈴木 「おかしいよねー」なんて言ってる人もいますから、わかっている人はわかっているんだと思います。特に技術部門に派遣で来ているエンジニアは専門技術を持っている人たちなので、強く違和感を感じているかもしれません。KDDIも「ARROWS Z」の件でずいぶんと叩かれたせいか、今年の春からカスタマーセンターの態勢を変えて、不具合が出た場合は積極的に別の機種に機種交換しましょうということになってきました。昔よりは少し良くなったかなという気はします。
–そういう体質の会社の離職率はどうなのでしょうか?
鈴木 正社員だと、あまり辞める人はいません。例えば、KDD出身で無線関連技術の人は高卒が結構多いのですが、国際無線がなくなって、営業部署に配属替えになっているケースがあります。本来は肩書がつかないようなケースでも部長職だったりしますし、高卒と大卒の給料格差も少なく、そういう意味では居心地がよい会社なのです。残業代はきっちりもらえるし、逆に残業は夜8時以降は禁止と会社から言われます。雇用面ではブラック企業と対極にあるとも言えますね。
(文=横山渉/ジャーナリスト)