ジョブズは、手で握って使う道具として物理的なサイズをも含めて、iPhoneという製品を捉えていたのだ。例えば、ピアノの鍵盤が製品によってサイズが変わったら、演奏者は戸惑ってしまう。そういうことだ。
かつて、PCの初代Macintosh(Mac)が登場した時、それはディスプレイ一体型で7インチのディスプレイを搭載していた。そして、ジョブズはこの7インチというサイズが、ひと目で情報が視認できて、最適なサイズだと主張していた。ジョブズは、単に世界で初めてのグラフィックユーザーインターフェースを持つパソコンを生み出しただけでなく、そのハードの持つ機能に関しても細かい哲学を持っていた。
●より多くの機能を求めて進化するAndroid
そんなiPhoneを尻目に、Androidでは6.4インチディスプレイを搭載する製品もスマートフォンを名乗り始めた。それがソニーモバイルのXperia Z Ultraだ。そして、ASUSは通話機能を持つ7インチのAndroidタブレットFonepad 7を販売している。しかし、そんな大型端末を使う多くのユーザーは、小型の端末も併用することが多い。大型端末1台で、すべてのユーザーに対応することは現実的ではない。
現在、Androidスマートフォンは、その最適サイズを探っているようにも思える。そして、より高性能なCPUであるSnapdragon 800を搭載した機種には5インチを超えるサイズのものも多い。これは発熱のためもあるだろう。そしてSnapdragon 800搭載機は、AV機能を高めたものも多い。
●道具としての進化を守ったiPhone 5s/5c
より多くの機能を求めて進化するAndroidに対して、iPhone 5sは単純に機能を求めるのではなく、そのサイズをキープし、道具としての使い勝手の良さという思想を継承して進化したといえる。
言うまでもなく、ディスプレイサイズが変わらなくとも、その進化がゼロだったわけではない。iPhone 5sで最も目立つ進化は指紋認証だが、よりセキュリティを高めるためには有用だ。また、より多くの周波数に対応することで、各国の通信網により対応できるようになったのも素晴らしい。
OSもハードに合わせてバージョンアップされ、ソフト的に使いやすさが増し、より多くのことができるように進化しているのはアップル的だ。Macも基本的にソフトで大きく進化を遂げてきた歴史がある。カラーリングが増えたのもユーザーニーズの多様化を考えれば必然だろう。また、5cというローコストバリエーションの登場も、市場の拡大を見越してのことだ。
それでは、iPhoneは今後もこのサイズを崩さず進化していくのか? というと、それはわからない。今回はiPhone 5sというiPhone 5の延長上の製品のため、その外枠を変えずに進化させたものという位置づけかもしれないからだ。
iPhoneは今後、MacがMac2でそのディスプレイサイズという外枠を壊したように、大きな外的進化をするのかもしれない。それはiPhoneの概念を変える大きな進化であるはずだ。
(文=一条真人/フリーライター)