普通なら、これで意気消沈してしまう。しかし、大分県は開き直った。翌13年秋に、「おんせん県って言っちゃいましたけん!」という人を食ったようなキャッチフレーズのCMシリーズを制作してオンエアしたのだ。タレントは一切使わず、歌やCGといった派手な仕掛けもない。出演者はすべて地元の人々。「県民手作りの地元密着型CM」(県関係者)である。
その内容が実にユニーク。12年に商標登録が認められなかったことを逆手に取り、出演者が「滑って転んで大痛県やわ」と自虐ネタをやってのけてしまう。全部で16パターンを揃え、別府、湯布院などの温泉地、関サバ、カボスなどの特産品をアピールした。ちなみに、この年「おんせん県おおいた」の商標登録が認められた。
CMは関西と福岡県でのオンエアだったため、当初はそれ以外の地域の人たちにはなじみがなかったが、県のホームページでアップしたことから人気が爆発した。宣伝効果は宣伝費に換算して11億7000万円に上ったという。
手ごたえを感じた県は14年、第2弾を制作。今度は「おんせん県って世界に言っちゃいましたけん!」と、さらに大風呂敷を広げるコピーで、15パターンを制作した。「日本は制した。次は世界だ」と浮かれる出演者に、別の出演者が「目立って、のぼせて大痛県じゃな」と釘を刺すシーンもある。世界農業遺産に選ばれた国東半島の乾シイタケを紹介する作品には、留学生ら外国人も出演している。
こうなると第3弾があるのか気になるところだ。県の広報担当者に尋ねると、「今年も制作することを考えています」というから、今から楽しみである。
話題のPR作戦で「世界のおんせん県 おおいた」に脱皮できるか
さて、そんな大分県の観光力の実態はどうなのか。大分県観光統計によると、14年の宿泊客数は、国内客が約390万人、海外客が32万5000人で合計422万5000人。09年の実績(国内客353万人、海外客17万5000人、計約370万5000人)に比べ、5年で14%増となっている。
内訳をみてみよう。14年、最も多いのは隣の福岡県からの客で103万人。続いて大分県内の客で74万人。この2県で国内客の45%に上る。さらに、その他九州・沖縄からの客が61万人となっており、九州・沖縄圏の客が国内全体の61%に達する。一方、関東からの客は57万2000人で15%にとどまっている。「おんせん県CM」が流れた近畿は35万人で9%だ。
海外客は、韓国18万4000人、台湾5万4000人、香港3万人などで、アジア圏が96%と圧倒的だ。
観光庁の「都道府県別 延べ宿泊客数」(14年1月~12月)で見ると、大分県は618万人で、九州・沖縄圏で6番目(トップは沖縄県=2004万人)。全国的にみると中位レベルの25位(トップは東京=5400万人)だ。「外国人延べ宿泊客数」(同)は37万人で、全国18位となっている(トップは東京で1345万人)。現状は、観光県としては、まだまだといったところである。
「大分の場合、別府、湯布院以外、観光地としての知名度が低かった。明らかに情報発信が不足していましたね。交通インフラも十分とはいえません。ただ、由布岳や、くじゅう連山、日豊海岸をはじめとする豊かな海、そして全国一の温泉と自然環境に恵まれているうえ、食材も関サバ、城下カレイに代表される海の幸から豊後牛、農産物まで豊富にそろっています。全国の八幡様の総本宮である宇佐神宮や、国東半島の神仏習合など歴史ロマンにあふれています。国内客はもちろん、海外からの客を呼び込む観光資源はすばらしいものがあるのです。話題になったCM以外に、魅力的な情報をうまく発信して、温泉地を活用した新しい健康志向の長期滞在型の観光モデルを構築すれば、ブランド力、観光力を大きくアップさせることが可能だと思います」(大分を取材したジャーナリスト)
新大分駅ビルがオープンし、高崎山自然動物園のシャーロットが人気になるなど、いま大分には観光面で追い風が吹いている。留学生が多いのも強みだ。立命館アジア太平洋大学(APU)がある別府市は人口に占める留学生の割合が日本一だ。そのAPUの留学生が作った大分の魅力を発信するCM6本も話題になった。
情報発信、留学生の活用、受け入れ態勢の整備。こうした課題をクリアしていけば、大分が「世界のおんせん県」になる日は遠くない。
(文=編集部)