ホームに響く怒声を、一度は聞いたことのある人も多いのではないだろうか。近年、駅員などに対する暴力行為が増加している。
日本民営鉄道協会は、大手民営鉄道16社で発生した駅員や乗務員等の鉄道係員に対する暴力行為の発生件数を発表している。それによると、2014年度は226件(上期125件、下期101件)であった。発生件数は、07年度の183件から翌08年度に236件と急増、その後は7年連続で200件を超えている。
発生時間帯は、始発から9時までの間は22件だが、徐々に増加し、9時から17時までの日中は57件、17時から22時までの夜は60件、22時から終電までの深夜になると、87件と急増する。深夜帯に発生件数が多いのは、加害者の状況と、暴力行為が発生するに至った理由に大きな関係がある。
まず、暴力行為が行われた時の加害者の状況を見ると、「飲酒あり」が162件と72%を占める。一方、「飲酒なし」は54件の24%、「不明」は10件の4%となっている。つまり、加害者の70%以上は飲酒している状態だということだ。
これは、暴力行為が発生するに至った理由にも、大きく関係している。発生した状況で多いのは、「酩酊者に近づいて」が54件で24%だ。しかし、意外にも最も多いのは「理由なく突然に」で、74件の33%となっている。この「理由なく突然に」も、酩酊状態ではないものの飲酒をしているケースが多い。理由として多そうな「迷惑行為を注意して」は29件の13%、「けんかの仲裁」は17件の7%と意外にも少ない。
発生場所としては、ホームが79件の35%、改札が81件の36%と多く、車内は29件の13%となっている。これは、駅員など鉄道関係者を対象としているため、ホームや改札が多いとみられる。
一方、加害者の年齢を見ると、20代が33件で15%、30代が39件で17%、40代が52件で23%、50代が34件で15%、60代以上が42件で19%となっている。
各世代がほぼ同程度に加害者になっている。ただ、20~30代に比べて60代以上が多いのは意外な印象だ。
注意して殴られる、終電逃して暴力……
暴力行為の具体例をいくつか挙げよう。例えば、自動改札機を無札で通過した乗客に声をかけたところ、顔を殴られた。この加害者は、40代で飲酒をしており、時間帯は深夜だった。
また、最終電車に乗るため階段を上ってきた乗客に、終電がすでに発車したことを伝えたところ、立腹して腹部を殴打されたという例もある。加害者は、60代以上で飲酒をしていた。
こうしたケースを見る限り、加害者はなんらかのかたちで自らに過失があるにもかかわらず、腹立ちまぎれに駅員や乗務員に暴力行為を働いているようだ。駅員や乗務員にとっては、その理由も判然としないまま、暴力行為を受けるケースも多く、身の危険を感じることもあるという。
総じて見ると、駅員や乗務員にとっては、深夜に飲酒している乗客は世代に関係なく、暴力行為の加害者に変身する可能性がある、ということだろう。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)