「東京五輪出場の条件」を満たしていない大坂
プロテニスプレーヤーがオリンピックに出場するには、ひとつまえの開催年から次大会開催までの4年間で、「国別代表戦に3回以上出場しなければならない」とされている。さらにそのうちの1回は、次大会開催前の1年、ないし次大会が開催されるのと同じ年に出場しなければならないのだが、大坂はまだこの条件を満たしていないのである。
「大坂は国別対抗戦に2017年2月、2018年4月に出場したので、現状では『あと1回』が足らない状態です。日本はグループⅡの入れ替え戦に勝って残留できたので、五輪イヤーの来年は2月と4月の2回に出場が可能となる。2月に1カ国と対戦し、勝っても負けても4月のグループ入れ替え戦にも出られるわけです」(体育協会詰め記者)
とはいえ、「来年はチャンスが2回ある。そのうちどちらか一方に出れば安心じゃないか」とはいかない事情があるのだという。
その大きな理由のひとつが、各大会の開催スケジュールによる体力の問題だ。大坂が今季と同じスケジュールを来年もこなすのだとすれば、2月にドバイ大会が、4月にはポルシェ・テニス・グランプリがある。ここに国別対抗戦を加えたとしても、一応スケジュールの調整自体は可能ではある。しかし、例えば1月半ばには全豪オープンが開催予定だ。同大会の「前年覇者」である大坂としては、この1月半ばにピークを迎えられるように調整していくはずだと考えるのが当然であろう。
1月の全豪で体力を消耗させた後に、2月のドバイ大会、そして国別対抗戦というハードスケジュールを強行するのか、あるいは4月のポルシェ・テニス・グランプリと国別対抗戦を連続させるスケジュールにするのか。もちろんどこかの大会をキャンセルして国別対抗戦に出場するという選択肢もあるにはある。しかし現時点で大坂のブレーンたちは、この2020年の五輪イヤーのスケジュールを明言してはいないのだ。
「7月には、四大大会の中でも最も権威のあるウィンブルドンが開催され、8月には大坂を世界の頂点へと導いた全米オープンが続きます。こうしたビッグタイトルが続く時期に大坂が、世界ランキングや獲得賞金に影響のない国別対抗戦に本当にエントリーしてくるのかどうか……ちょっと疑問が残りますね」(前出・体育協会詰め記者)
2020年の夏を乗り切れるのか
国別対抗戦への強行出場が疑問視される背景には、「プロテニス選手にとっての最高峰は五輪の金メダルではなく、四大大会のタイトルである」という現実が存在する。一部では「大坂にぜひとも五輪出場の資格を」と奔走する日本テニス協会に対し、批判的な選手がいるとも伝えられていた。しかし大坂が「日本が好き」の気持ちを優先させ五輪出場をも目指すとすれば、2020年の夏は、ウィンブルドン、東京五輪、そして全米オープン(8月最終月曜スタート)という超ハードスケジュールとなってしまうだろう。
「プロにとって、獲得賞金やランキングは、生活に直結する大事な問題です。大坂は日本を愛してはいるのでしょうが、『世界のトッププレーヤー』として各国から大きな大会に招待もされており、なかには、本人の意思とは関係なく出場しなければならない大会さえある」(前出・スポーツ専門誌記者)
先の全仏オープンでの敗退についても、大坂の「疲労」をその敗因に挙げる声が大きかった。クレーコートは球速が遅くなる分、ラリー(打ち合い)が長くなり、持久戦となる傾向が強いからだ。疲労、体力の消耗が大坂の成績の不振に直結しているのだとすれば、2020年の夏をウィンブルドン、東京五輪、全米オープンのハードスケジュールで本当に乗り切ったとして、その秋以降のことも当然心配である。
東京五輪組織委員会のひとりは、匿名を条件にこう語った。
「オリンピック観戦チケットの抽選結果が6月20日に発表されました。『どの競技もチケットが高額』とのご批判もあり、落選が多かったことも話題になりましたが、我々が驚いたのは、女子テニスの観戦チケット申し込み者も多く、なかでも決勝戦のチケット購入希望者がたくさんいたこと。これは、大坂の出場を期待してのことなのではないでしょうか」
プロテニスプレーヤーとしての責務、体力的な問題を理由に大坂が「東京五輪は無理、ゴメンナサイ」と宣言すれば、大パニックになってしまうだろう。彼女が常々発してきた「日本が好き」のメッセージに偽りはないはずだ。しかし大坂は、世界ランキング1位から陥落したとはいえ、引き続き同2位のトップランカーであることに変わりはない。彼女はもう、彼女の個人的な思いのみで選手としての行動を決定するわけにはいかない。そのような高みにまで上り詰めてしまったのである。
(文=美山和也)