安保法案反対は“刹那的な世論”かーー内閣支持率が証明する、個々人の集積としての民意
衆院での強行採決がなされた直後の朝日新聞の調査では、岸内閣への支持は17%、不支持は48%。退陣したほうがよいと考える人は58%に上った。不支持の理由としては、「世論を聞かず独裁的だ」が一番多かった。
このように、強引な政権運営に批判が集中したが、安保改定についての反対世論は、最後まで高まらなかったようである。岸氏が退陣し池田勇人内閣となった直後に実施された毎日新聞世論調査(1960年7月末)では、新安保条約発効について、33.9%が「やむを得ない」と答えた。「よい」15.3%と合わせると、49.2%が是認しており、「よくない」の22.1%を大きく引き離した。この時点でも「わからない」と答えた人は、26.6%もいる。
世論調査の結果を見る限り、国民の大多数は、安保改定を仕方なく受け入れたり、よくわからないのであえて反対はしない、という立場だった。したがって、政府・与党は「刹那的な世論」に抗して安保改定を敢行したとはいえないだろう。
一方、今回の安保関連法案はどうか。
各種世論調査では、軒並み法案への「反対」が「賛成」を上回っている。今月初めに行われた読売新聞の調査のように、「安全保障関連法案は、日本の平和と安全を確保し、国際社会への貢献を強化するために、自衛隊の活動を拡大するものです。こうした法律の整備に、賛成ですか、反対ですか」という、露骨な誘導質問を用意していても、「反対」は50%と、「賛成」36%を上回った。今国会での成立については、「反対」は63%に達し、「賛成」は25%だった。「わからない」など、回答を控える人の割合が少ないのも、60年安保の時とはまったく違う。
国会前に繰り出す人々の数は、確かに60年安保の時に比べれば少ないかもしれないが、法案の中身を一人ひとりが考えたうえで、「反対」の意思表示をしていることがうかがえる。
今回の安保法案に関する憲法論議に火をつけた憲法学者の長谷部恭男・早稲田大教授は、7月19日付朝日新聞での対談で、次のように語っている。
「首相は委員会採決の直前に、『国民の理解が進んでいる状況ではない』と答弁しましたが、私は、国民の理解はむしろ進んでいると思います。法案は違憲の疑いが濃く、日本の安全保障に役立ちそうもない。そうした理解が進んだからこそ、反対の声が強いのだと思います」
アベノミクスが支持の支え
ところで、世論調査における内閣に対する支持・不支持の理由を見ると、今回の支持率急落は、それまでにもあった支持率低下とはちょっと様相を異にしている。
特定秘密保護法成立直後の13年12月8~9日に行われた共同通信の世論調査では、内閣支持率が前回から10ポイント以上急落した。同法に「反対」と答えた人は5割に上った。
この時点で内閣を「支持する」と答えた人の支持理由のトップは「経済政策に期待できる」28.0%だった。秘密保護法への反対世論は大きくても、アベノミクスへの期待が支持離れを最小限に食い止めたのだろう。
一方、同社が今月17~18日に行った世論調査では、支持者の支持理由は「ほかに適当な人がいない」31.4%がトップ。「経済政策に期待できる」は10.6%にとどまった。また、不支持の理由で一番多かったのは、「首相が信頼できない」27.9%。秘密保護法直後の調査では、この理由を挙げた人は15.8%だった。