「多くの方に移住していただいていますが、人口増加に成功した大きな要因としては、30年間継続できた結果だと思っています。その町のイメージは一朝一夕でできるものではありません。そういった意味では、長年かけて町の色をしっかりと出せたかと思います。実際に、旭川に働きに行く町民と、東川で働く人の割合は同じくらいですので、町の産業も発展しているといえます」(東川町役場・定住促進課職員)
お金がなければアイデアでカバー
東川町には写真、ワイン、エコ、オリンピック選手育成など、各プロジェクトに投資して町の株主となれるユニークな制度がある。株主になれば、来町時に宿泊施設などの株主優待を受けられるほか、米や野菜といった町でつくられた食料品も郵送される。今年4月時点で3695人が株主登録し、累計1億円以上が投資されている。
「職員気質がいい意味で役所らしくないと思います。普通の役所感覚なら、『お金がないならやめよう』『前例がないなら見送ろう』となりがちですが、東川町では『お金がないならアイデアを出してつくろう』『前例がなければパイオニアの町になろう』といった風土が浸透しています」(同)
先述した株主制度も含め、写真の町宣言も後発で行われたもの。写真甲子園には毎年国内外から多くの参加者、関係者が訪れ、宿泊施設や地元企業を潤している。また、特別協賛にキヤノン、広告協賛企業に富士フイルム、ANAホールディングス、アシックスなどが名を連ねており、大手企業の協力を得ることに成功した。
農業以外の産業の創出も
移住後に問題となるのは、いかに収入を得るかという点だ。昨今、農業ブームが取り沙汰されているが、実際に農業のみで生計を立てるのはハードルが高く、また地域との連携も大きな焦点となる。東川町でも、農業に従事する移住者は数えるほどしかいないという。
東川町では新たに起業または新規分野の事業を行った場合、対象経費の3分の1以内(上限100万円)を補助する制度がある。もともと芸術活動や写真、建築家といったクリエイター移住者は多かったが、近年ではカフェや飲食店、職人などの起業者が増加している。
今年からは、町内の賃貸アパートに転居する労働者に対して10万円助成する取り組みも実験的に開始した。子育て支援制度も充実しており、地元民と移住者が交流する機会を積極的に推進している。
町長の松岡市郎氏は、地方再生について「どの地方都市でも、それぞれの特色、カラーがあり、いかにそのカラーを表現するかが大切」と話す。
大自然に囲まれ、その景観を崩さず次世代に継承する。どこか牧歌的な雰囲気を持つ東川町に付加価値をもたらしたのは、行政、住民、地元企業の熱意によるところが大きい。そして、継続性を持ち長期的なプランと選択肢を提供すること。町おこしのひとつの成功モデルとして、東川町から学ぶべきことは少なくないはずだ。
(文=栗田シメイ/ライター)