「開かずの踏切」だった
現場の「神奈川新町第1踏切」は、京急沿線の中でも「優秀な踏切」だった。国土交通省が全国各地にある踏切に関する安全性を調査し、その結果を公開している「踏切安全通行カルテ」によると、過去5年間の事故発生件数はゼロ。国の定める踏切保安設備の設置の必要の無い踏切にも関わらず、最新のレーザー式障害物感知装置も設置されていた。
前述のカルテによると、踏切は4本の線路と横浜市道が交差し、長さは19.4メートル。踏切に至るまでの市道は幅10メートル以下と狭い。そして時間にもよるが、「開かずの踏切」になるのだ。カルテによると、ピーク時の遮断時間は1時間のうち断続的に48分間。事故を起こしたトラックのドライバーは過去3回しか現場付近を通ったことがなかったそうだが、果たしてそれを知っていたのだろうか。
2019年度の京急の安全報告書によると同社の踏切は全線86カ所。神奈川県警の捜査関係者によると「京急の線路は東京都内は立体交差化が進んでいるものの、神奈川県内、特に京急川崎駅から横浜駅の間は踏切が多い。直線区間が続くために列車のスピードも速い。トラックの運転手も電車の運転士も互いに、目にしたタイミングで手遅れだったのではないか」と話す。
京急広報部は件の踏切に関して、次のように語る。
「3Dレーザー式の障害物検知装置が作動していることは確認が取れています。この検知器から点滅信号が運行している列車に発信され、それを見た運転士が急ブレーキをかけたことまで確認できていますが、(いつブレーキをかけたのかなど)その詳細なタイミングなどはわかっていません」
時速120キロであれば秒速約33メートル。仮に運転手が素早く対応しても制動距離は長くなる。運転士の反応にも限度があるだろう。そうしたことを踏まえ、JR東日本では一部の線路で障害物を検知すると、進行している車両に自動的にブレーキがかかるシステムを採用しているが、東京都内の私鉄での採用は進んでいないという。
鉄道ジャーナリストの梅原淳氏は、次のように語る。
「たとえば踏切で障害物を検知したら、速度の速い列車に絞って確実に自動ブレーキをかけるシステムを導入する必要があるのかもしれません。今回の件は、制動距離の観点から間に合ったかはわからないけれど、少なくとも運転士の見落としを防ぐことはできると思います」