「関係者の中では、『タイバブルは終わった』といった声があるのも事実です。例えば、給与面。かつて1部リーグで20万バーツ(約75万円)程度の給与水準だった選手が、半額になっているケースも耳にします。今年外国人枠が7人から5人となり、その影響もあって昨季60人ほどいた日本人選手も若干減りました。ただ、あくまで私の感覚では、日本人の数は現状から大きく増えもしないが、減ることもないと思っています。これまで両国が培ってきた関係性は非常に強いものがあるので、一定のニーズは保たれ続けるのではないでしょうか」(内田氏)
内田氏は、「より一層選手の質が求められる時代が来る」と予想する。
「外国人枠を争うライバルとなる、韓国やオーストラリアの選手と比較しても、日本人選手の質はずば抜けて高いです。ただ、それをタイの監督が理解できていないケースも多いですね。文化的に外国人には、どうしても派手なプレーが求められるので。今後は在籍数の増減というより、質の面で大きな変化が起きると思います。よりレベルの高い日本人選手が移籍してくる可能性が高いですね」
外国人選手の競争激化も、クラブ数の多さが選択肢を広げる
タイリーグには3部まで含め計約120ものクラブが存在する。クラブ数の多さも、在籍選手の多さの一因となっていることは間違いないだろう。現在3部リーグのチャムチュリ・ユナイテッドでプレーする久保木優は、リーグ全体で見ても数少ない大卒から日本のクラブを経由せずにタイでプロ契約を果たした選手だ。ちなみに、ほかにJリーグを経ずにプロ契約した選手は2部リーグのアユタヤF.Cに所属する小島聖矢ら少数。今季、リーグ得点王のタイトルも獲得し、タイで3シーズン目を迎えた久保木は、「タイリーグはJクラブを経由していない選手にとっても魅力的な選択肢となり得る」と語る。
「数年前はJリーガーという肩書だけで、獲得してもらえるチームも多かったと聞きます。ただ、現在はより実力主義の色が濃くなっています。言い方を替えれば、プロ経験がない若手でもプロとしてキャリアを積める場所だと思います。カテゴリーを問わず、地域性の強いチームは、ファンも熱狂的で動員数も悪くありません。そういった環境でプレーできることに選手として喜びを感じています」(久保木)
では、3部リーグ相当で給与水準はどの程度のものなのか。
「クラブによって異なりますが、平均的には月給3万バーツ(約10万5000円)で、良い選手で5~6万バーツ(約17万5000~21万円)ですね。3部リーグでも、年間10~15ゴールを決めると給与が倍になることもあり、10万バーツ(約35万円)を超える選手もいます。1部リーグでは、50万円を超える選手も珍しくありません」
余談になるが、筆者の知る日本人で、東南アジアで初めてプロ契約を結び、Jリーガー並に月給を伸ばした選手もいる。また、トップリーグではないにしろ、欧州への挑戦を掴んだ例もある。元Jリーガーはもちろん、日本で実績のない選手でも、ステップアップの可能性がある東南アジア。バブルは終わりを迎えつつあるが、それでも今後も日本人にとってひとつの選択肢として在り続けるのではないだろか。
(文=栗田シメイ/Sportswriters Café)