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熊谷充晃「歴史の大誤解」

戦艦大和、驚異の高性能ゆえにたどった数奇な運命 「時代遅れの産物」はデタラメ!

文=熊谷充晃/歴史探究家
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戦艦大和、驚異の高性能ゆえにたどった数奇な運命 「時代遅れの産物」はデタラメ!の画像1戦艦大和(「Wikipedia」より/Jappalang)
 ロマンを感じる戦艦の筆頭として、今も数多くのファンから熱い支持を得ている「大和」。艦名に「武蔵」や「長門」と同じく旧国名(地方名)が用いられているだけでなく、日本の旧国号にも重なることから、別格の存在感が漂う。

 主砲は世界最大の46センチ砲で、速力はこの規模の戦艦では驚異といえる27ノットを誇った。当時の日本が持っていた技術力、知識、資源の結晶ともいえるスペックである。

 大和といえば、第二次世界大戦時に特攻のために沖縄に出撃したものの、目的地に到達する前にアメリカ軍に捕捉され、執拗な攻撃を受けて撃沈されたという悲壮な最期も有名だ。戦場で活躍したという話がほとんどないため、「“虎の子”として温存しすぎた」といわれ、「無駄な建造物」の上位にランクインすることもある。

 しかし、本来の設計思想を鑑みると、大和は温存されすぎていたわけではない。大和は、日本近海での最終決戦を想定してつくられたものだからだ。

 当時の海軍は、真珠湾攻撃の成功後、ろくに補給基地もない太平洋を西へ西へと攻めてくるアメリカ軍を日本本土側におびき寄せる漸減撃退作戦を構想していた。決められた地点で待ち伏せして攻撃しては撤退し、補給もままならない状態で進軍を続けるアメリカ軍がヘトヘトになったところで、自分たちの庭で一挙に撃滅するという作戦だ。

 全滅させるのは無理でも、「多大な被害を与えて撤退させることができれば、時間稼ぎになる」という計算もあった。

 その最終決戦に登場するのが、前代未聞の超大型戦艦・大和である。長大な射程圏を生かし、疲弊したアメリカ軍を一方的に攻撃する作戦だったため、気軽に出撃させてダメージを受けることは避けたかったはずだ。結果として大和は、その通信設備などを活用して司令部としての機能を担うことが多かった。

 しかし、大和が外洋に旗艦として出撃することができたのは、資源に乏しい日本軍が、兵器に万能性を求めていたという事情もあるだろう。元来、船舶は用途に応じた設計が必要となる。例えば、航行するのが外洋か内洋かでは、重視するべきポイントやつくり方が異なる。

 大和は近海決戦用の迎撃兵器なので、波による船体の傾きを復元する能力や、波に対する抵抗力などは低いはずだ。これらは、外洋航行の際に強化すべきポイントだからである。実際、イギリスの戦艦などは北海やバルト海、地中海といった内海での航行を想定しているため、波への抵抗力は高くない。

 しかし、大和はこうした能力について外洋型戦艦並みであり、浮力を左右する(洋上での船体の安定性に関係する)乾舷の高さは、長門の1.5倍を誇っていた。

時代遅れではなかった大和

 大和は超巨大な船体にもかかわらず小回りが利き、全速力の27ノットで航行中に「回れ右」をする際も、必要な移動距離は640メートルと短いものだった。さらに、船体が傾く角度は9度という安定性だ。全長の3倍以下の移動距離で、ほとんど船体を揺らすことなく180度旋回することができたわけで、自動車でのUターンなどを思い浮かべれば、そのすごさがわかるだろう。

 大和は、これほどの高性能を有していたことで、日本の戦力が低下する中、武蔵と共に本来の目的外の部分で重宝されていたわけだ。

 大和には「航空機が主流となりつつある時代に建造された、時代遅れの産物」という評価もあるが、これも結果論的な視点だ。大和が建造された当時は、航空機は潜在能力こそ認められていたものの、「海戦の主役はあくまでも戦艦」という考えが主流だった。アメリカも同時期に次世代の超大型戦艦を構想しており、日本および大和は、決して時代の波に乗り遅れていたわけではないのだ。
(文=熊谷充晃/歴史探究家)

熊谷充晃/歴史探究家

熊谷充晃/歴史探究家

1970 年神奈川県生まれ。フリーライター。歴史探究家。近著は『教科書には載っていない! 戦争の発明』(彩図社)、『幕末明治動乱「文」の時代の女たち』(双葉社)、『テレビではいまだに言えない昭和・明治の「真実」』(遊タイム出版)、『世界文化遺産富岡製糸場と明治のニッポン』(WAVE出版)。週刊誌専属記者などを経て2005 年から著述家に。歴史全般のほか社会時事、スポーツ、芸能、ペットなど、ジャンルにより複数のペンネームを使い分けて活動し、自著は現在30 冊近く。また、企業の公式サイトやフリーペーパーなど多岐にわたるメディアで執筆している。

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