「夜勤なし」のはずが……
航太さんのタイムカードを見ると、出社はおおむね午前8~9時台で、入社後の1週間は遅くとも午後7時20分までに退社の打刻がある。しかし、仕事を始めて1カ月ほど過ぎたころには、午前3時台の退社が現れ始めた。出社は午後3~4時台の日もあるが、いつもどおり午前9時台の記録もあった。
深夜に仕事が終わっても電車は動いていない。仮眠室はあったが、上司や先輩、女性社員に配慮してソファなどで寝ることが多く、十分な仮眠は取れなかった。自宅で休むために原付自転車が必要だった。
この段階で、ハローワークに出ていた求人票とは実態が異なっている。求人票が正社員を対象としていた違いはあるが、アルバイトといえども、航太さんの会社選びの方針は安全面から導かれたものだ。
それでもグリーンディスプレイを辞めなかったのは、希望する業界で正社員になれる可能性を捨てていなかったからだ。
アルバイト開始後の様子について、淳子さんはこう振り返る。
「クリスマスシーズンに向けて仕事を始めて、『がんばれば内定通知が来るよね』という話をしていました。会社がどう言ったかわからないけれど、私たちは試用期間だととらえていました」
「年が明けてだんだんと疲れてくる様子があった。『ちょっとブラックかな』という話はしていました。それでも、仕事はすごく楽しいと言っていました。ただ、2月ごろにはさすがに本人も、『いくらなんでも体がもたない』と思ったようです」
長時間労働、パワハラ、侮辱 「手足がもげても働け」
1カ月ごとの残業時間は正確な記録が残っていないため、わからない。休憩をすべて取得した場合の残業時間は、アルバイトを始めた直後の1カ月が約84時間となる(所定労働時間173時間で計算)。休憩をすべて取った場合、これ以降の残業時間が月80時間を超えることはない。
ところが、淳子さんによると、会社の言う休憩は車での移動中や待ち時間に取ったものであり、実質的には休憩にあたらないという。移動中は、運転する先輩社員から「寝るな、道を覚えろ」と叱責されていたそうだ。
そこで、休憩は取れなかったものとして残業時間を計算し直すと、最初の2カ月は国の過労死認定基準を上回り、正社員登用直後の1カ月も87時間23分に達した。そのうえ、上司や先輩社員からは「手足がもげても働け」「苦しい顔をするな、いつも笑っていろ」「さすが平成生まれ」などのパワハラや侮辱を受けていたという。
14年3月末からは不規則労働も著しく、睡眠サイクルの乱れからいつ事故が起きても不思議はない状態だった。もちろん、航太さんも淳子さんも労働実態のおかしさには気付いており、その時点でアルバイトを辞めることを考え始めていた。