「現場重視」の負の側面
とはいえ、一体、なぜAさんに矛先が向いたのだろうか。筆者も会見で盛んに同校長に尋ねたが、要領を得なかった。ただ同校長は、Aさんは当初、加害者の女性教員を慕っていたが、ある時にプライバシーに関する情報を周囲に話されて疎遠になったことを明かした。とはいえ、それが標的にされた理由かどうかは不明だ。
市教委によると、被害教員は3人の男性教員とも仲が良く、自宅にまで招かれたり遊びにいったりしていた。どこからその関係が崩れたのだろうか。代理人は「Aさんは、なぜ自分だけがそんなに攻撃されるのかがわからず大変悩んでいます」と打ち明ける。仮にAさんに(対して)はなんの恨みもなかったとすれば、そこまでやれる感覚こそ余計に恐ろしい。
Aさんは、代理人を通して地元紙などに宛てた書面で、生徒へのメッセージを明かした。「先生はよく『いじめられたら誰かに相談しなさい』と言ってましたね。しかし、その先生が助けを求められず最後に体調まで崩してしましました」と悔い、元気な姿を生徒に見せることを望んでいる。
「主犯格」とみられる女性教員は、2代前の男性校長が招聘していた。教育に詳しいある神戸市議は今回の事案の背景として、人事異動における「神戸方式」があると強調する。「女帝とされる女の先生は校長が引っ張ってきた人物なので、他の教員も声を上げにくい」と見る。
筆者は2人の子供を神戸の小中学校に通わせたが、「神戸方式」など聞いたことがないため、市教委に確認すると「通常は市教委が人事を決めますが、校長同士が相談して、『うちの先生をそちらに』などと教員の異動を決め、お互い了承したら教育委員会に承認を求めるというものです」という。ただ、市教委は「女帝と言われていたようなことは確認していない」とする。すべて市教委が仕切るのではない「現場重視」は良い面もあろうが、こんなかたちで負の側面が出たのなら意味がない。
異常な事案に久元喜蔵市長は激怒し、今後は教育委員会から市の部局に移管した調査チームを立ち上げる。とはいえ、市は「第三者」を強調するが、メンバーを決めるのは市である。悪質行為は「いじめ」や「ハラスメント」のレベルを超え、暴行、強要、器物損壊などの立派な刑事事案だ。有罪判決にならなければ教員資格は失わない。被害者の代理人は被害届を兵庫県警に出した。代理人は「捜査に着手してくれなければ刑事告訴も辞さない」としている。
(写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト)