米国で「富裕税」がにわかに注目を浴び始めている。この構想の強力な提唱者であるエリザベス・ウォーレン上院議員が、来年の大統領選の民主党候補者の中で今や先頭を走っているからだ(10月上旬の世論調査での支持率は29%)。
米国で富裕税構想が浮上したのは2019年2月頃だった。当時この構想に耳を傾けたのは民主党の傍流だけだったが、今や様変わりしている。ニューヨーク・タイムズ紙が今夏に実施した調査では、国民の3分の2がこの構想を支持している。少数ではあるが、富裕層の間でも容認する動きが出ている。
ウォーレン氏(70歳)が全国的な知名度を獲得したのは、2008年の金融危機後、「銀行や投資家に対する政府の責任の欠如が経済破綻を引き起こした」と非難したことがきっかけだった。貧しい家庭で育った同氏は2012年に連邦議会上院議員に当選すると「富裕層には中流階級に対する責任がある」と主張し、社会主義的な志向を鮮明にしている。同氏が掲げる富裕税とは、
(1)5000万~10億ドルの純資産がある世帯には、その資産額の年率2%
(2)10億ドルを超える純資産がある世帯には年率3%
の税金を課すというものである。カリフォルニア大バークレー校のサエズ、ザックマン両教授によれば、これにより今後10年間に2兆7500億ドルの税収が見込めるとしている。
税の仕組み自体はシンプルだが、「富裕層が資産を租税回避地に移せば容易に税逃れができることから実効性は低い」との批判は根強い。米国でも最近、社会主義的な政策への理解が高まってきているものの、典型的な資本主義であるこの国に富裕税のような制度が導入される政治風土があるのだろうか。
「富の共有運動」
だが大恐慌後(1930年代)の米国は違っていた。米国でもかつて富裕層は現在よりかなり高い税率を課されていたのである。大恐慌後の米国といえば、ニューディール政策を断行したルーズベルト大統領が思い浮かぶが、当時ポピュリズムの勢いに乗り、ルーズベルト大統領と対決した人物がいたことは日本ではあまり知られていない。