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カネさえ払えばクビにできる法律が成立間近 焦点は金額基準の策定

文=溝上憲文/労働ジャーナリスト
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導入派と反対派の主張

 解雇紛争を解決する方法としては、都道府県労働局のあっせん、裁判所の労働審判、裁判による民事訴訟の3つがあり、解決金支払いによる決着が多い。都道府県労働局のあっせんでは10万円以上20万円未満が3割、過半数が20万円未満。労働審判の解決金は50万~100万円未満と100万~200万円未満に半数以上が集中し、平均は約300万円。裁判上の和解金は50万円から1000万円までと幅広く、平均は約451万円だ。

 あっせんや労働審判よりも裁判での和解金額が高いが、裁判は審理期間も長い。解雇の金銭補償ルールを法制化すれば労働者が救済されるというのが導入派の主張だ。

 これに対して労働組合など導入反対派は、解雇の金銭補償ルールを法制化すれば裁判で勝っても職場復帰できないし、仮に経営者が不当な解雇をしても「お金さえ払えば、辞めさせることができる」という風潮が蔓延し、解雇する会社が増える、と主張する。

 解雇の金銭解決制度は06年の第1次安倍政権下で厚労省の審議会で議論されたことがある。この時も経営者側は導入に賛成し、労働側が反対したが、中小企業の経営者からは「補償金額が高額になると支払えない」という疑念も出された。

 しかし、議論の途中でなぜか厚労省が断念したのである。

焦点は解決金

 実は法的効果の及ぼす影響以前に最も難しいのが、解決金をどうやって決めるのかという問題だった。当時の厚労省の労働基準局幹部は「法律論としては熟していないことがわかった。金銭の額についてもマニュアル的にいくらという基準はつくれないし、大企業や中小零細企業によっても金額は異なる」と述べていた。

 早々と諦めたので不可解に思っていたが、その理由は厚労省が最高裁判所に導入の可否を打診したところ「水準を決めるのは現実的に無理」と言われたのが事の真相だ。後に筆者が取材した最高裁の担当者はこう語っていた。

「労働者を解雇する理由がなく、解雇を無効とする判決を出す場合、解決金がいくらになるか判決文に書くことになる。しかし、解雇する理由がないといっても、現実には全然ないものから、少しぐらいはあるかなと思うようなものまで事案によって千差万別であり、それによって金額も微妙に変わる。地方裁判所の裁判官は高裁にいけば判決が覆るかもしれないと思うと、解決金の額を下げることもあるし、使用者側が出せる金額はどこまでかなと考えて金額を出す場合もある。判決文には書かれないが、こうした裁判官の微妙な判断が金額に影響してくるものだ。

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