(5)行政のガバナンスが正常に機能しない
指定管理者は、コンプライアンス上問題のある行為(または不作為)をなすケースもあるが、不祥事を起こしても指定を取り消されるケースはかなり稀である。
法律上、取消に当たって議会の議決は不要とされているものの、指定管理者の選定を主導した首長や与党の有力議員の意向は無視できないだろう。
指定管理者の不祥事は、選定した役所の失態として市民にとらえられかねないため、できるだけ表沙汰にせずに穏便に済ませようとするだろう。逆に、市民からすれば、役所が不正行為をした民間事業者とグルになって不祥事を隠蔽しているようにしか見えない。
また、指定を取り消すとなれば代わりに施設を管理運営できる体制を整えなければならないが、一度指定管理に移行してしまうと直営に戻して運営するだけのノウハウがもはや自治体にはなくなっている。かといって、後釜となる管理者を見つけるのも容易ではない。つまり、「不正行為が発覚したら、即指定を取り消す」ということは、現実的に相当困難だ。その結果、行政のガバナンスが正常に機能しないことが常態化してしまう。
指定管理者制度は沈みゆく旅客船?
公共施設の民間委託を、大型の旅客船の運営にたとえてみよう。
経営を効率化する際、船会社が最初に手をつけるのは、船内のレストランや劇場、遊技施設、客室清掃などの部分だ。それぞれ特定の業務を専門の業者に任せれば、効率よく業務をこなせるようになるばかりか、スタッフを直接雇用しなくて済むため、その労務管理の手間も省ける。
次の段階が、船を動かす機関室の部分の外部委託だ。自前の機関士を雇用して、イチから一人前に育てなくても、そのつど外部から派遣してもらえば、自社では大して苦労もせずに、船を運行させていくことが可能となる。
それでも、船の運行に関してすべての責任を負っている船長だけは船会社が直接雇用している正規社員を使い、決して外部委託はしないものだが、さらに費用を削ろうとしたときには、この船長の権限までも外部に委譲して、旅客船運行そのものを別の会社に任せる方式が浮かび上がってくる。この「船の運行を丸ごと代行させる」方式が指定管理者制度の本質である。