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永濱利廣「“バイアスを排除した”経済の見方」

GDPは無意味?経済状況を反映しない…政府はもっと国民の所得を上げる政策を取るべき

文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト

 GDIは国内(D:Domestic)の経済活動による所得(I)を表している。国際収支における経常収支は、貿易収支やサービス収支、所得収支、経常移転収支に分けられ、GDIには貿易・サービス収支しか計上されない。これに対して、GNIは国民(N)を対象としており、海外への投資で得た配当などの所得収支を含む。

 したがって、GDIは国内の所得規模を計る代表的な指標ではあるが、国民全体の所得状況を見るには所得収支を含んだGNIがより適切な指標となる。

 そこで、経済の成熟化に伴い海外投資を積極化した19世紀の英国のように、国民全体の総所得を示すGNIを増やすことに活路を見いださざるを得ない。19世紀後半から20世紀初めにかけての英国は、経済が成熟化して国内での投資機会が減少するなか、北米など当時の新興国への投資を積極的に進め、投資収益を獲得したことで、貿易赤字をはるかに上回る所得収支黒字を計上し、国民所得の拡大を可能とした。

GNIを増やす政策

 GNIを増やすには3つの視点が重要である。第1に、GDIを増やすことである。そのためには、国内所得を生み出す源泉となる国内企業の雇用機会を増やす必要がある。企業の六重苦を緩和するためには、税制改革や経済連携協定の推進による立地競争力の強化が鍵となろう。

 加えて、交易損失を減らすことが重要だ。現在、米国の9倍の価格で中東から輸入されている液化天然ガス価格を引き下げるだけでも、相当な交易損失の減少につながる。それを実現するための積極的な通商政策が必要となる。

 第2に、新しい分野での雇用を生み出すことだ。そのためには、人口が減少するなかでも市場の拡大が期待される医療・介護や教育・保育、農林水産などの分野での規制改革が必要だろう。結果としてこれらの分野で需要喚起が実現すれば、農産品の輸出増や女性の労働参加も促されよう。

 第3に、それでも補えない部分を海外への直接投資や証券投資などから利益を上げる所得収支で稼ぐことだ。投資やサービスのさらなる自由化、国際間の人材移動の活発化などにより直接投資や証券投資収益を拡大させることが重要な課題となる。

 また、投資協定の締結などを通じて、対外投資で稼いだ海外資金の国内還流を阻害する要因を除去する必要もあろう。加えて1700兆円にも上る家計金融資産の運用パフォーマンスにグローバルな経済成長をより反映させることで、証券投資収益を拡大させる取り組みにも期待したい。
(文=永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部主席エコノミスト)

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

永濱利廣/第一生命経済研究所経済調査部首席エコノミスト

1995年早稲田大学理工学部工業経営学科卒。2005年東京大学大学院経済学研究科修士課程修了。1995年第一生命保険入社。98年日本経済研究センター出向。2000年4月第一生命経済研究所経済調査部。16年4月より現職。総務省消費統計研究会委員、景気循環学会理事、跡見学園女子大学非常勤講師、国際公認投資アナリスト(CIIA)、日本証券アナリスト協会検定会員(CMA)、あしぎん総合研究所客員研究員、あしかが輝き大使、佐野ふるさと特使、NPO法人ふるさとテレビ顧問。
第一生命経済研究所の公式サイトより

Twitter:@zubizac

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