不都合な事態を回避
ところで、「推定」とは、ある事実(A)があった場合、別の事実(C)が証明されない限り事実(B)を真実とする、といったように使われます。
上記の例でいえば、「結婚してから200日以降に生まれた」という事実(A)があった場合、DNA鑑定などで「夫は父ではない」という事実(C)が証明されない限り、「夫の子」という事実(B)が真実であるとされます。
ここで、推定される事実が2つも3つもあると困ったことになってしまいます。
例えば、ある女性がXとの離婚と同時にYと再婚したとします。この場合、「離婚してから300日以内に生まれた子」はXの子と推定されますが、「結婚してから201日以降に生まれた子」はYの子と推定されるので、Xと離婚(直後にYと再婚)してから201日目~300日以内に生まれた子は、XとY、両方の子と推定されてしまい、XもYも生まれた子を自分の子として自分の籍に入籍できることになるなど、トンデモないことになります。
そこで、民法733条1項は「女性は、離婚してから6カ月(180日)間は「再婚できない」こととして、このような不都合な事態が発生するのを避けることとしました。
しかし、よく考えると「Xと離婚してから101日以降にYと再婚」すれば、Xとの離婚から300日以内に生まれた子はXの子、Yとの再婚から201日目(Xとの離婚から301日)以降に生まれた子はYの子となり、「推定」が重なることはありません。
とすると、「再婚できない」期間は、「6カ月(180日)」ではなく、「100日」で十分ということになります。
岡山県の女性の方はこの点を指摘し、さらには、DNA鑑定が発達していること、ドイツなどでは再婚禁止期間が撤廃されていること、日本でも平成8年に法制審議会が再婚制限期間を100日にする改正案を挙げていたこと、さらに、そもそも「再婚後に生まれた子は全て再婚した夫の子と推定する」といった法律にすれば足りる、などを主張してきたわけです。
今回、最高裁は「100日を超える再婚禁止規定は違憲」としたようですが、夫婦の「別姓」を認めるかどうかといった「日本という国における家族制度のあり方」がどうあるべきかという話と異なり、「女性のみの再婚禁止期間」について法律が必要以上に制限してしまっていたことが明白であった以上、国民の意見を確認するまでもなく違憲と判断したことは、当然といえます。