日本の役所とは思えない組織、入管
フェルナンデスさんは難民だと認められていない。不法滞在ということになるが、事実上滞在が認められているのはなぜなのか。難民の案件に多く関わっている、久保木太一弁護士から聞いた。
「フェルナンデスさんは強制退去させられるポジションにはあるわけですけど、それでも無理矢理帰すこともできないという中途半端な地位に置かれているわけです。スリランカ人で難民申請する人は増えています。私が関わっている別のスリランカ人も、テレビ番組での政治的主張によって、顔を隠した人物から銃を突きつけられて脅されて日本に来ています。それでも難民申請が認められるのは相当に困難です。
スリランカのタミル人のケースで、難民申請をして拒否されて裁判に訴えて、大阪地裁で難民だと認められたケースがありました。それで改めて入管に申請したら、『裁判の時と状況が変わってタミル人は危ない状況じゃなくなった』と言って難民と認めなかったとのことです。入管と接して感じるのは、難民が原則として『偽装難民』として扱われているということです。
入管というのは、とても日本の役所とは思えないところです。難民申請の部署には、案内表示も受付窓口もなく、どこに並んでいいかわからない。ただ廊下に立っているしかない。これが公務員かと思うほど、職員は横柄でぶっきら棒な言葉遣いをします。1週間後に入管に来いという呼出状が来ても、何階のどこに行けばいいのかも書いてない。指定された日に予定が入っていたりするじゃないですか。『別の日にしてください』って言っても、『そういうことは、やってません』と断られます。
しかも手続きの際に、弁護士の立ち会いを認めない。せっかく弁護士に依頼してても、弁護士に相談できない環境のなかで『君、在留期間が過ぎたから、帰国するか捕まるかのどっちかだよ』って迫られて、『帰ります』ってサインをさせられて出国命令を出されて帰されてしまうこともあります。難民というのは、証明が難しいんです。フェルナンデスさんも命を狙われているわけですけど、政府に狙われているというところまで証明しないと、難民だと認められにくい。彼に銃を突きつけたり暴行を振るったのは、政府ではなく、政府の狂信的支持者かもしれないとなると、それを政府が故意に容認しているというような例外的な場合などでないと難民だと認められないんですね」
フェルナンデスさんの息子さんは、23歳と20歳。奥さんのことも愛していると言うが、10年以上会えないでいる。本当はスリランカに帰りたいが、それが叶わないのなら、難民と認めてもらいたいというのが切なる願いなのだ。
(文=深笛義也/ライター)