ミサイル防衛の難しさ
地上から発射されるICBMと潜水艦から発射されるSLBMの2つの脅威。北朝鮮が前回テポドン2号改を発射した14年12月には、自衛隊は東シナ海と日本海にイージス艦3隻を展開させ、石垣島や東京など7カ所にペトリオットを配備した。今回の破壊措置命令でイージス艦やペトリオットが出動したと報じられているが、果たして、きちんと撃ち落とすことができるのだろうか。
「誤解が多いですが、破壊措置命令はミサイルを迎撃するのではありません。ミサイルが日本に飛来する恐れがあり、その落下による被害を防止する必要があるときに、ミサイルを破壊します。わかりやすくいえば、アメリカや太平洋に向けて発射されたミサイルが日本上空を飛行しても、撃ち落とすことはないということです。制御不能になったミサイルや、飛行中に外れたミサイルの部品が日本に落下すると判断したときに、それを『破壊』するだけなのです」(同)
防衛省関係者の話に従えば、北朝鮮によるミサイル発射が成功すれば、指をくわえて見ているだけ。失敗してミサイルが日本に向かってきたときにのみ、自衛隊は対応するということだ。
「赤外線を感知する早期警戒衛星がミサイルの発射を捉え、全国5カ所に配備された通称『ガメラレーダー』とイージス艦がミサイルにレーダー波を照射して追尾します。しかし、この追尾は飛んでいる蠅にレーザーポインターを当てるぐらいの高度な技術で、これを10秒程度の間に行わないといけない。仮に追尾できたとしても、イージス艦のミサイルは150キロメートル、ペトリオットは20キロメートル程度しか射程がありませんから、部隊が展開した場所以外にミサイルが飛んでしまえば、何もなす術がないというのが現実です。これがミサイル防衛(BMD)の難しさであり、弾道ミサイルの怖さでもあるのです」(同)
内政上の理由
BMDの有効性については、多くの軍事評論家が疑問視しているが、先に敵のミサイル基地を攻撃する以外には、BMDしか術がないというのも事実だ。ではなぜ、政府はこのようなある意味“賭け”のような対応に出たのか。政治部記者は、その背景に「内政上の理由があるのではないか」と疑念を呈する。