現代の日本では、長時間労働やサービス残業、正社員と非正規社員との待遇格差などが大きな社会問題となり、非正規労働者の待遇改善が国家的な課題となっている。
「一億総活躍社会」を掲げる安倍晋三首相は、2月5日の衆院予算委員会で初めて「同一労働同一賃金」法制化の可能性について言及した。正社員と非正規社員が同じ仕事をしていても、正社員のほうが高い賃金を得ることをなくすためのものだが、法制化すると働く人にはどのように影響するのだろうか。労働問題に詳しい佐藤宏和弁護士は、次のように解説する。
「実は、契約社員やパートタイマーに関し、同一労働同一賃金の法制化は一定程度実現しています。また2015年9月、すでに『同一労働同一賃金推進法』が施行されています。この法律は同一労働同一賃金の基本理念や調査研究の推進に加え、労働者派遣法上での派遣社員と直接雇用社員との待遇の均等化・均衡化を目指すものです」
すでに類似する法律がつくられていたのであれば、今回安倍首相が言及した法制化はどのような意味があるのか。
「同一労働同一賃金推進法は、同一労働同一賃金の基本理念や調査研究の推進を一般的に定めたもので、具体的な権利保護について定めた法律ではありません。労働者派遣法上の派遣社員と直接雇用社員との待遇の均等化・均衡化を目指す規定がありますが、この法律では派遣社員の待遇について、『三年以内に法制上の措置を含む必要な措置を講ずる』(6条2項)とされていました。法制化に至らなくても『必要な措置』を講ずればよいとしていたため、国会での法案成立時に『骨抜き』との激しい批判を浴びました。今回は、これを法制化するというものですから、派遣社員に関しても同一労働同一賃金の実現に向けて大きく前進することになるでしょう」(佐藤弁護士)
派遣以外の非正規社員には、すでに待遇の均等化・均衡化を定めた法制化が一定程度行われているから、派遣社員について法制化が実現すれば、すべての非正規社員について同一労働同一賃金が法制化されることになる。これで、正社員と非正規社員の待遇に差はなくなるのだろうか。
同一労働同一賃金を文字通りとらえれば、同じ仕事であれば正社員でも非正規社員でも同じ賃金が実現するようにも考えられる。しかし、「同一賃金の前提として、何を同一労働と見るかが問題となる」と佐藤弁護士は指摘する。
「契約社員やパートタイマーなど、すでに法制化された分野では、業務や職務の内容が同一でも責任の程度や配置転換の範囲などに違いがあれば同一労働ではないとされているので、法律上同一賃金にする必要はありません」(同)