“適度に”差のついた賃金は認められる
労働契約法やパートタイム労働法を見ると、「業務の内容」だけで同一かどうかが決まることはなく、「責任の程度」「配置の変更の範囲」「その他の事情」を考慮して、不合理でなければよいとされているのだ。
「同一労働同一賃金推進法でも、派遣社員に関し『業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度その他の事情に応じた均等な待遇』だけでなく『均衡のとれた待遇』(6条2項)、つまり適度に差のついた賃金でもよいことになっています。したがって、結局、無期雇用と有期雇用、フルタイムと短時間労働では、責任の程度や配置転換の範囲による合理的な差異が認められるのと同様に、直接雇用と派遣との間では、責任の程度に応じて適度に差のついた賃金が認められることになります」(同)
これは一見すると常識にかなったルールにも思える。しかし、佐藤弁護士は問題が生じる可能性を指摘する。
「実際には仕事に違いがなくても、書類上で責任の程度や配置転換の範囲などに形式的な違いを設けるだけで賃金に差をつけることができてしまいます。そうなると制度が骨抜きにされてしまい、法律が実質的に機能しなくなる可能性があるのです」(同)
つまり、表向きは正社員と非正規社員の差をなくすための法律ではあるが、実際に差があっても何も機能しないということか。
「当局の指導による是正はあり得ますが、制度に魂を入れるか否かは個別企業の判断ですから、ブラック企業を直ちにホワイト企業に変身させるほどの効果はありません。ただ、今回の法制化により、責任の程度等にあまり違いがないなど労働条件の違いに合理性を認めにくい場合に、非正規社員の待遇改善を促す可能性はあります」(同)
13年施行の改正労働契約法の影響で、実際に大手銀行や大手保険会社などで契約社員の無期雇用化や福利厚生向上などの待遇改善が進んだことは事実だ。待遇改善によって人材確保が引き合うということが明らかになってくれば、法制化の効果として待遇改善が進むことは期待できるだろう。
「マスメディアを通じてこの種の問題が国民に浸透すれば、労働者の権利意識向上を通じて法律を基準とした待遇改善に進むことが期待されます。かつては泣き寝入りしていた非正規社員にも、法律を根拠に使用者と交渉する機会が与えられることになり、従来に比べて少額の労働紛争がいっそう増加すると予想されます。また、少額の労働紛争は短期間かつ効率的に処理されなければならないため、迅速に解決するための労働審判制度の重要性が高まっていくと考えられます」(同)
法制化によって非正規社員の待遇が直ちに改善されるわけではないが、多少なりとも社会に変革をもたらすきっかけにはなる可能性がある。
(文=編集部)
【取材協力】
弁護士 佐藤宏和
事業再生、M&A分野に強いセンチュリー法律事務所の所属弁護士。弁護士登録以前に、ソフトバンク、SBIホールディングス等で子会社の上場や、代表者として子会社を経営した経験を持つ。ソフトバンク在籍中に米国公認会計士試験に合格するなど、会計実務にも通じる。
労働法無料法律相談サイト「解雇・残業代トラブル法律相談サイト」運営責任者。