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だから冤罪はなくならない!警察の違法な取り調べを助長させる裁判所の「身内びいき」

文=江川紹子/ジャーナリスト
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 実は、AさんとBさんは、「傷害事件」の前に土地の境界線をめぐって争いがあり、裁判にまでなった間柄だ。その結果、Bさんは自分の小屋を撤去しなければならなくなった。そういう事情を踏まえれば、警察はBさんがAさんを陥れようと虚偽申告をした可能性も無視せず、それぞれの主張が客観的な証拠に整合するかを十分吟味するなど、慎重な捜査をすべきだったろう。しかしK刑事は、ひたすらBさんの訴えを真実のものとして、Aさんに自白を迫っていた。

 取り調べの途中、次のようなやりとりもあった。

K「あなたは被疑者です」

A「被疑者?」

K「犯人です」

 この発言意図を、後に法廷で裁判官から問われたK刑事は、こう答えている。

「被疑者という言葉はちょっと一般的に使わない言葉ですので、わかりやすいように『犯人』という言葉を使った発言になります」

 捜査段階での「被疑者」が「犯人」とは限らないことは、一般の人たちにとっても常識ではないのか。しかし、警察では(少なくとも大阪府警では)今なお被疑者=犯人という教育をしているらしい。

 20代のK刑事は、Aさんにとっては孫くらいの年齢。9月11日の録音には、そのK刑事がAさんを「あんたみたいな爺さん」と呼んだり、名前を呼び捨てにしたうえ、「名前を呼ぶのも億劫や。不毛や。ちゃんちゃらおかしいわ」と言い捨てている部分もある。

 また、小学校の校長として定年まで勤め上げたAさんに対し、K刑事は次のような罵倒もしている。

「あんた、どうやって物事教えてきたんや。ガキやから適当にあしらっとったら、『先生、先生』言うてくるから、適当に答えとったんやろ。あんたがそういう(否認の)回答するんやったら、あんたの人生、そういう風にしか見いへんで。ああ?」

 こうした発言についてK刑事は法廷で、「確かにこの時は冷静さを欠いておりまして、不必要な発言があった」と認めつつ、それは「原告(Aさん)の揚げ足を取るような言動であったり、挑発的な態度、また私に対して見下すような態度をしていたので、私は冷静さを欠いていったんだと思います」と、Aさんに原因があるとしている。

 それでも裁判所は、録音があった9月11日の取り調べについては、「社会通念上相当性を逸脱した違法な取り調べ」と認めた。殴る蹴るといった暴力以外の方法で自白を強要したり、人格を否定するような態度についても違法性を認めた意議は小さくない。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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