尚美さんによると、送致書に提出されている信助さんに暴行をふるった若者の写真は、目撃証言とは違う服装をしていた。さらに自称痴漢被害者の女性は事件当日酩酊しており、信助さんを痴漢扱いしたことについて「人違いでした」という上申書を書いて立ち去ったが、10年1月26日に突然、この女性当人によるものとされるワープロ打ちの被害届が新宿署に提出された。裁判対策用に信助さんを容疑者に仕立てる証拠品や調書の偽造が「特命捜査本部」で行われていたのは、想像にかたくない。
犯罪立証に目撃者はいらないのか
敗訴の判決を受け都内で開かれた裁判説明会で清水弁護士は、「痴漢事件など存在しない」と怒りを露わにした。「防犯カメラの映像は警察で恣意的に使われている」と清水弁護士は監視社会に警鐘を鳴らす。送致書では信助さんの「犯行現場」は階段から通路へと「移動」されていた。110通報した信助さんの暴行被害を一切捜査しなかったため、暴行されている場面が映っていない場所へ事件発生現場をずらしたことに、弁護団も支援者も驚きを隠せない。
清水弁護士は続けて以下のように述べ、国と闘う姿勢を見せた。
「JRが協力して証拠を出したら裁判所は無視した。暴行の間接的目撃者がいても無視した。そうなったら、犯罪立証に目撃者はいらないじゃないですか。警察官が適当に報告書を書けば有罪になる。そういう事になりかねない。それは着々と進んでいる。この問題に気がついた私たちとすれば、このまま済ますわけにはいかないと思います!」
また、元北海道警察の原田宏二さんはこう語った。
「警察にとって何が一番重要か、というと組織防衛なんです。組織を守るということは何よりも大事なのです。対応方針は変わる。(国賠に備えて)痴漢はないと言った判断は取り消しです。判断するのは警察署長です。(当時立延哲夫氏)現場の警察官の判断はいとも簡単に変わります。組織防衛のためには(信介さんを痴漢の被疑者として送致したのは)当然の結果だったのです」
[原田宏二氏所感]
この事件を追い続けるフリージャーナリストの林克明さんは「判決は認められません」と憤る。「裁判所は判決文で新宿署が信助さんに痴漢の容疑が晴れた事の告知と弁護士を呼ぶ権利の告知をする義務はない、としています。それじゃ、警察はやりたい放題です。そんな判例を認めたら大変です」さらに「信助さんの死後、新宿署がやった事はもっと問題です。開示された送致書の調書はめちゃくちゃ。信助さんの痴漢の証拠だと提出された防犯カメラのビデオ映像は改ざんされています」とこの事件の本質は捜査権限を逸脱した「調書偽造事件」だと問題視した。