「会社の業務、企業秩序等に明らかに支障が生じる場合には、兼業・副業を禁止することができるのは当然です。私的な時間における兼業・副業に対して、会社が制約できる場合は、次の2つが典型的です。
・本来の業務に専念できない場合
・所定労働時間以外の兼業・副業による労働が長時間となり、疲労の蓄積などによって本来の業務に専念することが困難となる場合
このような場合には、雇用契約の本旨である『本来の所定労働時間における労働』を完全に履行することができません。それを防止するために、兼業を禁止することは可能です。兼業が本業に支障を来し、または来すおそれがあり、注意指導を繰り返しても改善されない場合に、懲戒処分等の厳しい制裁を行うべきでしょう」(同)
雇用契約を結んで安定した給料を受け取っている以上、会社の業務に支障を来さないようにすることは当然の義務だ。浅野弁護士は、会社側は兼業が無秩序に広がることを防ぐために、「兼業・副業を許可制として会社が把握した上で、許可した場合の就労についてルールを定めるといいでしょう」と勧める。
「少子高齢化の進行により、ますます労働人口が少なくなり、また低賃金層の増加なども社会問題となっています。その一方で、IT技術の発達、インターネットの普及によって、手軽かつ短時間でできる兼業・副業は増加しています。これらの情勢を勘案すると、各企業は、本来の業務に支障が生じない範囲において所定労働時間外の兼業・副業を広く認めるという対応を検討すべきでしょう」(同)
兼業・副業を一律に禁止することは、会社として法律的にリスクの高い行為であることがわかった。社員として働く人も、過度に恐れていてはもったいない。最近では、国も副業を積極的に容認する流れに向かっている。企業は、冒頭で紹介したロート製薬のように、適切なダブルワークのあり方について柔軟に考えていくほうが、就職希望者からの人気が高まるのではないだろうか。
(文=Legal Edition)
【取材協力】
浅野英之(あさの・ひでゆき)弁護士/浅野総合法律事務所代表弁護士
労働問題・人事労務を専門的に扱う法律事務所での勤務を経て、四谷にて現在の事務所を設立、代表弁護士として活躍中。
労働問題を中心に多数の企業の顧問を務めるほか、離婚・交通事故・刑事事件といった個人のお客様のお悩み解決も得意とする。
労働事件は、労働者・使用者問わず、労働審判・団体交渉等の解決実績を豊富に有する。