「ぐすーよー、まきてぇーないびらんどー(皆さん、負けてはいけませんよ)」
本土出身の筆者にはまったくわからない沖縄の言葉だったが、その怒気をはらんだ大きな声に身震いがした。沖縄の生の怒りに触れたような思いがしたからだ。
早くも梅雨が明け、真夏となった6月19日の那覇市。午後2時から市内の奥武山公園陸上競技場で、米軍属の男による暴行殺人事件に抗議する県民大会が開かれた。会場には日ざしを遮るものはほとんどなく、炎天下のなか集まった人々は、帽子やタオルで暑さをしのぎながら、次々と登壇する出席者の話を辛抱強く聞いていた。
1時間を過ぎたところで、ようやくこの日の大会の“真打ち”となる翁長雄志知事がマイクの前に立つと、ひときわ大きな拍手があがる。
知事挨拶のポイントは、日米地位協定の抜本的な見直しと在沖海兵隊の撤退・削減を含む基地の整理縮小の要求、そして普天間飛行場の名護市辺野古への移設の阻止。「現在の日米地位協定のもとでは米国から『日本の独立は神話である』と言われているようなもの」と安倍晋三首相にも伝えたと述べて、拍手や指笛を受けたかと思えば、最後は冒頭のように、うちなーぐち(沖縄の方言)で強い怒りを示してみせるなど、弁舌のうまさが際立つ。日本政府に対し、「県民の怒りが限界に達しつつあること、これ以上の基地負担に県民の犠牲は許されないことを理解すべきだ」と険しい顔で迫ってみせたあたりは、もはや日本政府と利害を異にする琉球国王であるかのような振る舞いにすら感じさせた。
基地撤去の世論、新たなフェーズに
事件は4月28日晩、沖縄本島中部のうるま市でウォーキング中の20歳の女性が32歳の米軍属の男に暴行され殺害された上に、北部の恩納村の雑木林に遺棄されたというもの。沖縄県警は5月19日、この男を死体遺棄容疑で逮捕し、その後、殺人と強姦致死の容疑で再逮捕している。
これまでにもたびたび米軍関係者による事件に苦しめられてきた沖縄では、この事件を機に反基地感情がぐっと高まった。