恐怖心は、読売側から裁判所に提出された陳述書にも表れた。
「社内の記者たちが述べた陳述書を読むと、事実に反することを書いている。『清武に支配されていた』とか(笑)。オウムじゃないんだから。多くの記者が踏み絵を踏まされたのだろうが、情けないことだ。昔の記者には若干の勇気が、少しは感じられたが、今はなくなった」(清武氏)
渡邉氏を評する記者の発言は、昇進するにつれて変化していくという。
「ヒラのときは『ナベツネ』と呼び捨てにしていた記者も、ポストが上がるにつれて『良いオヤジだ』『良いところもある』などと言い出す。私は読売新聞でのポストの序列を“背信の階段”と呼んでいる」(同)
●読売にマイナスとなった1億円損害賠償請求
しかし、この騒動で記者に良心が芽生える可能性もあるのではないか。そう指摘するのは、正す会に出席した元衆議院議員で弁護士の早川忠孝氏である。
「複数の裁判の中で、巨人軍・読売サイドが清武氏に対して、名誉毀損で1億円の損害賠償請求訴訟を提起したことは読売側にとってマイナスだった。1億円という金額については、裁判の結果を待つまでもなく社会が容認しない。読売の社会的評価を下げたし、事実をねじ曲げた陳述書を書いた記者に良心が芽生えて、いずれ反撃してくる可能性もある」
さて、裁判の行方はどうなるのだろうか。清武氏は「勝ち負けは心の中にある。仮に裁判で負けても、訴えたことは正しいので、それは勝ちだ」と述べたが、同席した七つ森書館社長の中里英章氏は、勝訴への決意を表明した。
「出版言論の自由に関わることなので、当社も清武氏も負けるわけにはいかない。どちらとも勝たないと日本の夜明けは遠くなる」
司法が健全に機能しているかどうかは、ひとえに国家の健康状態を判断する基準でもあるが、清武氏をめぐる裁判は、どんな健康状態を明らかにしてくれるのだろうか。
(文=編集部)
【註1】朝日新聞の巨人軍新人契約金報道:12年3月15日付朝日新聞は、1997〜2004年度にかけ、巨人軍が、プロ野球12球団で申し合わせた新人契約金の最高標準額(1億円+出来高払い)を超える契約を、6選手と結んでいたと報じた。この報道について読売側は、清武氏の関与があるとの見解を表明した。
【註2】週刊文春の原監督1億円支払問題:「週刊文春」(文藝春秋/2012年6月28日号)は、原辰徳巨人軍監督が、現役時代の女性問題に関連し、06年、反社会的勢力に1億円を支払ったと報じた。この報道について読売側は、清武氏の関与があるとの見解を表明した。