中東の過激派組織「イスラム国」(IS)が戦闘員に支払う給料のなかで、家族手当を支給していたことにちょっと驚いた。
それがわかったのはトルコに潜伏するISの戦闘員リーダーの隠れ家から発見された「会計帳簿」。そのなかに給与の支払い記録があった。新聞ではこう報じられている。
「戦闘員1人につき月120ドルを『基本給』として支払い、既婚者には妻に月120ドル、子ども1人につき月50ドル(約5500円)を加算。賃料や水道代、電気代も負担していた」(6月2日付朝日新聞夕刊より)
なぜ驚いたのかといえば、家族手当は日本ではおなじみだが、実はこの手当は世界でも一部地域を除いて日本以外にはないからである。欧米には家族手当を含めた生活手当はほとんどない。なぜなら給与は担当する職務を基準にした職務給であり、職務価値とは関係のない生活手当を支給するという発想がないのである。
しかし、ISは家族手当だけではなく、賃料という「住宅手当」まで支給している。会計帳簿では戦闘員23人の基本給が毎月120ドル(約1万3000円)から690ドル(約7万7000円)の範囲で支給されていたらしい。どのような基準で差を設けていたのかわからないが、おそらく日本企業と同じような年齢や勤続年数、ポテンシャル(潜在能力)といった曖昧な基準に基いていたのではないだろうか。
日本企業の基本給はご存知のように職務が明確でなく、「この社員は、こういうことができるだろう」という職務遂行能力や年功で決めている。実際の成果や貢献度であまり差をつけることなく、年功による平等性を装う(欧米から見れば矛盾しているが)ことで社員の一体感を保ってきた。とはいっても基本給を多く払うことはできない。だから家族手当などの諸手当をつけて弾力的に運用してきた歴史がある。
実際に日本で家族手当が多くの企業で導入されたのは、太平洋戦争前の1939年(昭和14年)の「賃金臨時措置令」がきっかけだった。インフレ抑制のために賃金引き上げが凍結された。だが、物価上昇によって扶養家族を持つ労働者の生活が苦しいことから翌年の40年に一定収入以下の労働者に対し、扶養家族持ちの手当の支給が許可され、多くの企業が家族手当を導入したのである。