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家族手当は戦後も継続された。生活保障の重要な柱として労働組合が引き上げを要求し、高度経済成長時代に構築された「日本的雇用システム」のひとつとして男性世帯主を中心に支給される家族手当が定着したのである。
今でも家族手当を支給している企業は全体の76.5%にのぼる(人事院「平成27年職種別民間給与実態調査」)。企業が家族手当を支給する背景にはこうした歴史的経緯に加えて、家族を抱えて生活費のかかる社員が安心して仕事に打ち込めるようにする狙いがある。
つまり、基本給が労働の対価であるとすれば、家族手当は会社や経営者が特別に支給する“恩情”手当であり、「家族のことは心配いらないから仕事に精を出してほしい」という忠誠心を醸成する効果もあったのである。もしかしたらISも戦闘員の一体感と忠誠心の向上という効果を狙って導入したのかもしれない。
日本企業とほぼ同額
しかも家族手当の金額も大きい。妻に約1万3000円、子ども1人につき5500円というのは現地の物価水準からすれば極めて高額だ。驚いたことに日本企業の家族手当とほぼ同額なのだ。
民間シンクタンクの2015年調査では、日本企業の家族手当で、配偶者は平均約1万4000円、1人目の子どもは約5900円となっている。ISの家族手当はまるで日本企業をモデルにしているのではないかとさえ思ってしまう。
しかし、手当の額に比べて基本給が低すぎる。米議会調査局の調査ではISは戦闘経費がかさみ、戦闘員に支払う給与を半分に減らすことにしたと米国CNNは今年1月に報じている。おそらくトルコで判明した戦闘員の基本給は、減額されたものである可能性が高い。
日本では企業が基本給を下げることはめったにない。なぜなら基本給は生活の根幹であり、手をつけることが許されない聖域だ。ここに手をつければ、従業員の志気に影響するだけではなく、離職を促すことにもなる。
ISも、家族手当で保ってきた一体感と忠誠心が崩壊してしまう可能性があるだろう。
(文=溝上憲文/労働ジャーナリスト)
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