この成功によって、電通の「商業オリンピック」は冷戦が終結した90年代以降にますます拍車がかかり、大きな利益が見込めるために、開催都市や国の招致予算も青天井となっていく。開催都市を決める票を持つIOC委員には巨額の賄賂による買収工作が横行し、どんどん五輪を腐敗させていったのだ。つまり、電通は五輪を「売りさばく」ことで莫大な利益を得てきたのである。
世界のスター選手からは無視される五輪
しかし、ここにきて、「商業オリンピック」にはデメリットのほうが目立ち始めている。
「スポンサーからお金を集めるには、五輪が世界最高のスポーツ大会、いわば世界中のトップアスリートが集まる大会でなければなりません。スター選手が出場するからこそ、莫大な放映権料を支払うテレビ中継も高い視聴率が約束される。ところが、商業化によって安易に競技種目を拡大した結果、現在の五輪はマイナーなスポーツが増え、人気競技からスター選手が逃げ出しているのです」(B氏)
実際、サッカーをはじめ世界的なスーパースターを抱える競技団体は、ワールドカップなど、「世界一」を決める大会を自分たちで主催している。わざわざ五輪で世界一を決めてもらう必要はまったくなく、むしろプロ選手の五輪出場を制限しているくらいなのだ。テニスにせよゴルフにせよ、本物のトップアスリートは五輪よりも億単位の賞金が出る大会を優先する。
現在の五輪で、世界的なスーパースターが参加する競技は陸上ぐらいしかない。電通がIAAF前会長に多額の賄賂を払ったのは、そのためである。
今回の裏金問題は、こうした「商業オリンピック」の腐敗ぶりがあらわになったものといえる。疑惑の解明を進めるフランス当局は、電通を介してJOCが支払った裏金の総額は30億円以上とにらんでいるという。
今後の展開次第では、東京五輪の開催都市返上にも発展しかねない大失態だが、日本のメディアは裏金問題で電通の名前を一切出そうとしない。せいぜい、「D社」と書いてお茶を濁すぐらいだ。
そして、都知事選の候補者たちも、こんな腐敗しきったイベントが「東京をアピールする絶好の機会」などといって、裏金問題には頬かむりしている。電通と東京五輪という利権の前では、国も都も知事もマスコミも、みんな同じ穴のムジナなのだ。
(文=西本頑司/ジャーナリスト)