2013年4月の量的・質的金融緩和以降、日銀は物価上昇が進まないのは、経済全体に出回るお金の量が少ないからだと考え、国債の買い入れを増やすことで積極的にお金を経済に供給してきた。日銀は、お金の供給量を増やせば人々は消費を増やし、物価は上昇してデフレ脱却は可能と考えた。それでも、物価は上昇していない。これに対して日銀は物価上昇が抑制されているのは海外要因などに原因があると主張してきた。
しかし、今回の総括的な検証の中で日銀は、お金を増やしても物価が上昇しないことを認めた。日銀は、わたしたちの物価上昇に対する期待が上昇しづらくなっているために、2%の物価安定の目標が達成されていないと示した。この要因として、原油価格の下落や新興国経済の減速などの外的要因に加え、長引く景気低迷の影響から将来の物価上昇期待が上がりづらいことが指摘された。物価低迷は、お金の量ではなく、産業の活力低下に影響された側面が大きいのである。
つまり日銀は、お金の供給量を増やしても人々の物価に対する期待はコントロールできず、不確実性があることを認めた。記者会見の場で黒田東彦総裁も、17年度中に物価目標を達成するには不確実性が高いと述べている。
こうして金融決定会合は「お金を増やせば物価は上がる」と主張してきたリフレ派のメンバーを説得することに成功し、より長期的な視野で柔軟な金融政策を進める方向にかじを切った。
鮮明化するマイナス金利の悪影響
次のポイントが、急速な金利低下が経済にもたらす悪影響だ。総括的な検証の中で日銀は、マイナス金利政策は国債の買い入れとの組み合わせによって短期から長期までの金利を大きく押し下げたと評価している。問題は、金利押し下げの効果が日銀の想定を上回ってしまったことだろう。
当たり前だが、金利が低下すると、利息収入は減る。銀行にとってみれば、貸し出しを増やしても、十分な利ザヤを稼ぐことが難しくなる。その結果、預金の利率も引き下げなければならなくなる。これが金利低下の悪影響だ。14年6月からマイナス金利政策が導入されてきたユーロ圏の銀行は、収益低下を受けて経営への不安が取り沙汰されている。
1月のマイナス金利政策の導入以降、一時は40年国債の利回りが0.1%を下回るなど、金利は急速に低下した。その結果、銀行業界、金融庁からもマイナス金利が金融機関の収益を悪化させ、経営体力を奪うとの懸念や批判がなされてきた。つまり、過度な金利の引き下げは金融機関の経営悪化を通して経済に悪影響を与えるのだ。