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読者プレゼントを社員が横領?パズル雑誌“大量未発送”騒動の裏にある危険な“業界慣行”

文=編集部
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晋遊舎が発行するパズル雑誌のひとつ、『みつけて楽しい!まちがいさがしフレンズ』2020年11月号。同誌においても、過去にプレゼントの“未発送”があったのだという。

 雑誌掲載の「読者プレゼント」を実はまったく送ってなかったことが発覚し、『クロスワードフレンズ』などのパズル雑誌を発行する中堅出版社・晋遊舎の姿勢が問題視されている。毎日新聞の報道によって明らかになったもので、景品表示法が規定する「有利誤認表示の禁止」に抵触している可能性もあるという。

 晋遊舎はこの報道を受け、同社公式サイト上に「弊社パズル雑誌・プレゼントの発送につきまして」との声明を発表。声明によれば、2016年以降に発売された『まちがいさがしフレンズ』など6種の雑誌プレゼントや複数誌にまたがるキャンペーンにおいて、プレゼントが未発送であったことを謝罪。ただし「実際に予定していた発送時期よりお時間が経過」してしまったとのことで、最初から読者を騙すつもりだったのではなく、あくまでも「発送が遅れているだけ」だということを強調しているようにも読める。

 今回の問題が起こった要因としては、社内の編集部門と、実際の雑誌製作に当たっていた外部の編集プロダクションとの間で「認識に齟齬」があったこと、社内の担当者が多忙でプレゼント発送にまで手が回らなかったことを挙げ、未発送分に関しては、今後順次発送していくとしている。

 男性誌の編集業務にかかわったことのある、中堅出版社のある社員はこう語る。

「晋遊舎というと、“お騒がせ出版社”というイメージが強いですね。もともとはアングラ系のパソコンガイドや成人向けマンガなどを発行していましたが、2005年には、今日まで続く“嫌韓ブーム”をつくったともいわれる『マンガ 嫌韓流』をヒットさせ、しばらくは嫌韓・嫌中本をさかんに発行していました。そうした“危なっかしい”本を出す一方で、無断転載騒動などトラブルも何度か起こしています。ただ2009年頃から、商品やサービスの徹底比較・レビューをウリにした『MONOQLO』や『LDK』などをヒットさせ、近年はある程度普通の出版社になったのかなという印象を持っていました。『MONOQLO』は、一時は発行部数10万部を超える勢いがあったとも」

「プレゼント当選者の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます」の文言で、未発送でもなかなかバレない

 さて、一方でこうした「プレゼント未発送」問題は、雑誌業界においてたびたび起こっているのも事実だ。近年の例だけでも、2013年には中堅出版社・秋田書店の女性向けマンガ誌など3誌で読者プレゼント当選者数の水増しが発覚し、消費者庁から再発防止を求める措置命令がくだされている。

 2015年には、同じく中堅出版社・竹書房でも、実話系のマンガ雑誌など7誌において秋田書店と同様のプレゼント当選者数の水増しが発覚、同じく消費者庁から措置命令を受けている。

 なぜこうした事例は続くのか。パズル雑誌の編集経験がある編集プロダクション社員はこう語る。

「パズル誌やクイズ誌は多くの中堅出版社が発行していますが、以前はこの種の当選者水増し、あるいはもっと悪質な“当選者捏造”とでもいうべき事例は、業界内で横行していたように思います。なぜ横行するのかといえば、豪華なプレゼントがたくさん当たるように見せておけば雑誌の売り上げは上がり、そして実際にはプレゼントを送付しなくても、よほど悪質で長期間にわたって継続していない限りめったに“バレない”からです。

 パズル雑誌やクイズ雑誌は多くの問題を掲載しており、その解答を書いてハガキで応募すれば豪華な商品がたくさん当たるように読者にアピールすることが、雑誌の売り上げに直結します。そのため、家電品、ブランドバッグから最近はIT機器までプレゼントは実際非常に豪華であり、しかもそうしたプレゼントが数十名に対して当選すると記載してあるのも珍しくない。

 ところが、『プレゼント当選者の発表は商品の発送をもってかえさせていただきます』とのお決まりの文言を入れておけば、仮に誰にもプレゼントを発送していなくても、基本的にはバレませんよね。応募しても当選しなかった読者は、『また今回もハズレたか……』と思うだけですから」

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2020年10月10日現在、晋遊舎の公式サイトは「弊社パズル雑誌・プレゼントの発送につきまして」の声明が表示されるのみという異常事態となっている。

読者プレゼント用に購入した商品を社員が持ち帰るなどの悪質例も

 こうした行為が起こる背景には、昨今の出版不況の影響もあるという。前出の編集プロダクション社員は続ける。

「電車や喫茶店のなかでクロスワードパズルや数独に興じるお年寄りを見たことがある人も多いと思うのですが、昨今の出版不況で雑誌も売れないなか、パズル誌というのは、高齢者を中心とした一定のファンが存在し、紙の雑誌を毎月買ってくれるという貴重な市場なんです。そうやって一定の売り上げが見込め、しかも週刊誌のように時事ニュースに追われたり、ファッション誌のように大人数のモデルの撮影に追われたりということもなく、パズル作成作家さんだけつかまえておけば、ルーティンワークで編集作業ができてしまう。そのため、パズル雑誌を発行している出版社はたいてい、何誌も似たようなパズル誌を発行しているのが常です。

 とはいえ昨今の出版不況で使える経費は減っている。しかし豪華な商品を多数掲載しなければ、読者は雑誌を買ってくれない。というわけで、実際には読者に発送するつもりもない商品を掲載したり、あるいはそこまで悪質でなくとも、『当選者10名』と誌面では書いてあっても実際に当選するのはひとりだけ……というような詐欺的行為が横行することとなるわけです。

 しかし、実はここまで出版不況が進行していなかった頃のほうがひどかったともいえるかもしれません。私の在籍していた出版社では、プレゼント購入はたいてい若手社員の仕事で、買い出しの際には数十万円から100万円近くを編集長から渡されます。若手は新宿の家電量販店などに繰り出し、数カ月分、数誌分のプレゼント用商品を大量買いする。とはいえ、同じ商品を複数買いすることは少なく、実際に購入するのは各商品1点のみです。帰社して雑誌掲載用の商品撮影をすれば、あとは商品は倉庫のなか。雑誌では『当選者10名』などと謳われていても、実際の当選者は各商品1名のみ。そこまで高額ではない商品なんかは若手が持ち帰って私用にしてしまうことを黙認する雰囲気もありましたね。つまり、実際に商品が応募者の手に届かない……というわけです。

 最近はコンプライアンスも厳しくなり、秋田書店竹書房が問題となって消費者庁からもお叱りを受けるなどするなかで、徐々にこういった悪質な例は各社ともに減っていったように思います。晋遊舎のパズル雑誌がプレゼント購入において先述のようなひどい行為をしていたのかどうかはわかりませんが、少なくとも数年間にわたりほとんどプレゼント商品を発送さえしていなかった……という今回の同社の例は、やはりかなり悪質かなと個人的には思いますね」

 10月10日現在、晋遊舎の公式サイトは、本稿冒頭で紹介した「弊社パズル雑誌・プレゼントの発送につきまして」の声明が本来のトップページに表示されるのみ……という異常事態となっている。晋遊舎に消費者庁からの措置命令がくだされるところまでいくのか、今後の行方が注目される。

BusinessJournal編集部

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