一度目は、12年1月にさいたま地方裁判所に再審請求し、15年12月に最高裁で棄却されている。これがなかなか棄却しづらいものであったことは、想像に難くない。なにしろ、警察の監視記録による新証拠があったのだ。
最初の事件が起きたのは、1993年4月20日。被害者の家族から相談を受けて、関根との間に犬の売買をめぐるトラブルがあったことを知った埼玉県警は、関根と風間が共同経営するペットの繁殖と販売の会社「アフリカケンネル」の関係各所を監視していた。
2件目の事件は、同年7月21日。このときに、風間は犯行現場に呼び寄せられることになる。警察によるアフリカケンネルの万吉犬舎の駐車場の監視記録は、風間の供述と一致している。取り調べ時のYの供述によれば、長時間にわたってベンツとクレフが停まっていたはずなのだが、それが一度も見られていない。周囲は田畑で、見晴らしのいい場所である。
棄却理由では、ベンツとクレフが見られていないのは捜査員の見落としだとされている。そこには、こんなことも書かれている。
「(監視をしていた)渡辺警察官は、同日午後7時34分から同日午後10時5分までの間について、何をしていたか記憶がないと証言している」
裁判所は、一般人より警察官の証言に信用性を置くのが普通だが、警察官の職務怠慢に判決の正当性を求めるという、きわめて苦しい棄却理由だ。
2度目の再審請求は、2015年12月にさいたま地裁に行われ、17年1月に棄却。即時抗告し、東京高等裁判所で審理されている。即時抗告は棄却決定書が着いてから3日のうちに行わなくてはならない。棄却は1月6日で、その後は土日月と3連休だった。土曜日にポストに届いた棄却決定書を弁護人が見たのは、期限の日となる火曜日。その日のうちに即時抗告しなければならなかった。このやり方を見ても、棄却に自信がなかったのでは、と思われる。
再審請求している限り、死刑は執行されない
最初の事件での犬の売買のトラブルとは、ローデシアン・リッジバックの雄雌2頭を買う約束で1100万円を関根に支払ったが、被害者がその額が高すぎることに気づき、返金を求めたというものだ。
風間は公判で、この件で関根から450万円しか受け取っていないと証言したが、弁解にすぎない、と判決では退けられた。
今回、新証拠として提出されたのは取り調べ時の調書で、そこでも風間は、受け取ったのは400万円か450万円である旨の供述をしている。この時点では、関根が何を供述しているのか知らないのだから、弁解ではなく事実を語っているということになる。
関根は普段から、客から受け取ったお金を会社の会計を担当していた風間にすべては渡さず自らの懐に入れていたという、Yの証言がある。風間は1100万円という額は知らなかったのであり、共謀の成立のしようがないという決定的証拠である。