今や、自国以前に、保身のために大統領令を打ち出した印象すら残る。トランプ氏の心情を察するに、なりふり構ってはいられないというのが実情だろう。なんとかして共和党保守派との溝を埋め、税制改革への支持を取り付けたい。それでも、今後の政策運営は難航が予想される。税制改革のなかで国境税が導入されると輸入物価は上昇し、米国の消費にはマイナスの影響が出る。それは保守派も理解しているはずだ。公約通りの政策を成立させるために、トランプ大統領下のホワイトハウスは、何が政策議論の進展を妨げているかを冷静に分析しなければならない。
トランプ相場の巻き戻しに注意
このように考えてみると、トランプ政権の目玉といわれる税制改革が下院共和党の支持を得られるかは不透明だ。トランプ政権の政策のなかでも、金融市場は法人減税などの動向に注目している。それは、企業のフリーキャッシュフローを増やし、設備投資に回るお金を増加させる。その上で政府が新しい技術の導入をサポートすることができれば、生産性は改善し、賃金にも上昇圧力がかかるだろう。
オバマケア代替法案の採決取りやめ以降、米国の株価は伸び悩んでいる。一言でいえば、追加的にリスクを取ってよいかどうか、投資家は様子を見ている。もしトランプ政権が現実的な発想を身につけ、共和党との関係を深め、共同して経済対策を打ち出すことができれば、昨年の大統領選挙後に上昇した株式市場は、今後も落ち着いた展開を維持することができるだろう。反対にいえば、トランプ政権が調整能力を発揮することができないと、期待は剥がれ落ちる。それはトランプ相場ともいわれる株価上昇の巻き戻しにつながるはずだ。
トランプ相場の巻き戻しは、世界経済の先行き不透明感を高める。世界全体を見渡すと、中国などの新興国を中心に、過剰な生産能力、債務の累積の解消が必要だ。欧州ではイタリアの不良債権処理が進んでいない。それはユーロ圏の金融システム不安につながるファクターだ。そうしたなかでも世界経済が安定を維持しているのは、米国の株式市場が上昇し、景気先行きへの期待が高まったからだ。そして、その背景には、トランプ氏が財政政策を重視して経済の底上げを目指したことがある。
米国株式市場が下落し始めると、世界の金融市場では急速にリスクオフに向かうだろう。債務問題や政治動向に懸念のある新興国通貨はかなりの売り圧力に見舞われる可能性がある。それを避けるためには、トランプ政権が現実路線に立って、必要な政策を進めなければならない。これまでの動きを見る限り、短期のうちにトランプ政権が冷静に、現実的な発想を獲得するとは考えづらい。政治動向次第で金融市場が動揺しやすくなっていることは、しっかりと認識すべきだ。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)