防げなかった「9.11」
93年4月には、FBIの強行突入時に女性や子供を含む米国民81人が死亡する衝撃的な事件が起こる。ブランチ・ダビディアン事件である。
武器不法所持の罪に問われた新興宗教団体の教祖と信者がテキサス州ウェーコの本部に立てこもり、銃撃戦を繰り広げたのち、FBIが装甲車で突入する。ところが建物の一角から出火し、教祖と信者の大半が焼死した。化学兵器禁止条約で使用を禁止された催涙ガスをFBIが使用しており、これにFBI側の銃火が引火したとみられている。
旅客機を使った2001年9月11日の同時多発テロ事件では、FBIは不審な外国人が米国内で航空機の操縦訓練を行っているなどの情報を事前につかんでおきながら、テロを未然に防ぐことができず、非難を浴びる。失態の原因は官僚主義に凝り固まった組織にあった(青木冨貴子『FBIはなぜテロリストに敗北したのか』<新潮社>)。
以上ざっと振り返っただけでも、誠実で有能な「正義の味方」というFBIのイメージが実像からかけ離れていることがわかるだろう。
しかも普通の人々を厳しく摘発する一方で、政府関係者や有力政治家に対する取り扱いには、首をかしげたくなるものが少なくない。
コミー氏は長官職にあった昨年、大統領選民主党候補のヒラリー・クリントン元国務長官が在任時に私用の電子メールアドレス・サーバーで公務を行っていた問題で、機密情報の扱いが「極めて軽率だった」と指摘しながら、訴追を見送った。
当時は民主党のオバマ政権で、クリントン候補が次期大統領に有力視されていたことを考えると、「FBIは伝統的に政権から独立している」というコミー氏の公聴会での発言がそらぞらしく響く。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)
●参照文献(本文に記載したものを原則除く)
Dia Kayyali, FBI’s “Suicide Letter” to Dr. Martin Luther King, Jr., and the Dangers of Unchecked Surveillance(2014.11.12, www.eff.org)
James Bovard, Dethrone the FBI, Not Just Comey(2017.5.12, www.fee.org)