消えた「ロシアとの融和」
大統領就任前、トランプは在日米軍の駐留費用を日本に負担させると言っていたが、2月に来日したマティス国防長官が日本の駐留米軍の経費負担(ホストネーションサポート)について「他国へのお手本」と言って、トランプ発言を否定したことは記憶に新しい。
「6月1日、地球温暖化対策の国際的な取り決めであるパリ協定から、アメリカが離脱することをトランプは発表しました。日本ではやはり、ニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストでアメリカの世論をみようとするので、アメリカでも『離脱とはなんたることか』と受け取られていると思ってしまう。だけど、ウォール・ストリート・ジャーナルは、よくやったと書いています。パリ協定に縛られて企業が動けない、負担がかかるということがあったわけで、トランプだからやってくれたと保守層からは歓迎されています」
トランプが考えていたロシアとの融和は、ロシアゲートが騒がれたことで、どうなるのだろうか。
「それは、もうできないと思います。だから国際情勢の大勢には影響はないですが、日本にとっては厳しい部分があります。トランプがロシアとの融和を進めれば、北方領土問題が動いたかもしれない。だけど、その可能性はなくなりました。マイケル・グリーンやマイケル・オースリンなど知日派が政権に入っていないということも、少なからず日本には不利でしょうね」
日本の憲法改正と米国
ほかにも、日本への影響はあるのだろうか。
「トランプが安全保障を丸投げしているということでみておかなくてはいけないのは、日本に関して大きな発言力を持っている元国務副長官のリチャード・アーミテージや国際政治学者のジョセフ・ナイが、『日本は憲法をいじるな』と言っている点です。解釈改憲で集団的自衛権が認められた。『解釈改憲をやっていれば日本国民の誰も気づかないうちに自衛隊を使えるのに、憲法改正なんか言うから、寝た子を起こしているんだ、静かにやればいい』という考えです。現実に派遣が難しいことになる。
実際、5月に南スーダンから自衛隊は引き上げましたが、あれは憲法改正を言っているから、自衛隊の海外派兵がどうのこうのという話になったわけで、そうでなければ日本国民の誰も気にしなかったでしょう。南スーダンからの自衛隊撤退を、アメリカは歓迎しているわけではない。憲法改正の動きによって、逆に自衛隊に縛りがかけられるのは嫌だと思っているのです。
マイケル・グリーンも言っていますが、求められているのは自衛隊の戦力アップではなく、自衛隊を海外に使えるような法整備なのです。アメリカが利用できるような部分的なところの増強は求めるけど、本体として独自で動けるような自衛隊の強化は望んでいません。安倍首相は日本会議を利用していますが、それが憲法改正の動きにつながるからいいと思う人たちもいるでしょう。しかし、アメリカからみると、日本会議はアメリカに好意的な人たちばかりではない。ナショナリズムが高揚したら、やっぱり日本に米軍がいるのはおかしいっていう話になるかもしれない。そんなことも含めて、アメリカは憲法改正の動きは、かなり気にしながら見ていると思います」
ロシアゲートはアメリカ権力中枢のすさまじい権力闘争の表れであり、日本も無関係ではありえない。
(構成=深笛義也/ライター)