――周辺国の顔色を見ながらうまく立ち回るのは、歴史に育まれた外交テクニックのひとつというわけですね。
高 NHKの番組で、旧ソ連の元外交官が北朝鮮外交について、こう振り返っていました。
「我々は、北朝鮮に多額の援助をすれば、ほかの東欧諸国と同様に衛星国家になるだろうと容易に考えていました。しかし、援助をしてもまったくメリットがなかった。それどころか、援助を受け取った後、『自分たちで自由に国が運営できる』とわかったら、我々を追い出したのです。決して、あの国にかかわろうと思ってはいけない。それが我々の助言です」
北朝鮮外交の本質を突いた助言です。親切心で甘く対応しようとすれば、えらい目に遭うということです。
金正恩の“母親コンプレックス”とは
――北朝鮮は核やミサイルの開発技術が格段に進歩しているとされています。実際、どれほどの軍事力があるのでしょうか。
高 たいしたことはありません。北朝鮮の軍部の力は、かつてないほど大幅に低下しています。ただ、一般の軍事力では韓国に負けますが、核兵器とミサイルは形勢を逆転する力を持っています。
そもそも、「先軍政治」という言葉が日本では誤解されています。これは「軍隊式で国を運用しよう」という意味で、必ずしも「軍を優先しよう」ということではありません。
核やミサイルの開発は朝鮮労働党の機関が実施していますが、今は朝鮮労働党の力も低下しており、「党の人間は結婚できない」ともいわれています。そのため、党の中には現役時代に人脈を構築して商売に走る人も多いです。
――金正日には、腹違いの弟である金平一(現・駐チェコ北朝鮮大使)がいますが、暗殺にまでは至りませんでした。しかし、金正恩は叔父の張成沢を処刑し、腹違いの兄である金正男を暗殺しました。
高 これは、文学や歴史の世界で考えれば、よく理解できます。日本や韓国を含め、世界中で権力争いのために兄弟や親子が殺し合うという話は数多くあります。「権力」という甘美な果実をほしいがために、血族で争う。そんな話が現実に起きているのだととらえれば、理解できるのではないでしょうか。
金正恩は母親の高英姫が在日コリアンだったため、北朝鮮からすればいい血統ではないのです。金正恩自身も、そういったコンプレックスを常に感じているはずです。そのため、権力の頂点に立った今、味わった果実を手放すことはないでしょう。金正恩の側近たちも、その果実を味わっており、今や金正恩と側近たちは共犯関係であり運命共同体です。そのため、なんとしても金正恩体制を維持しようと躍起になっています。