この消費税還元セール禁止特措法、正式名称を「消費税の円滑かつ適正な転嫁の確保のための消費税の転嫁を阻害する行為の是正等に関する特別措置法」という。
国会に提出された法案本文は、全部で7章立てになっていて、第1章には目的とこの法律で使用されている用語の定義などが書かれている。目的はもちろん「消費税の円滑かつ適正な転嫁を確保すること」である。
以下、第2章は下請けいじめを禁止する内容になっており、例えば大手スーパーや百貨店が、納入業者に対し、消費税分を上乗せしない金額の仕入価格を強要することはアウトだ。
問題の還元セール禁止に関する事項は、第3章に記載されている。この章で禁じている行為は次の3つだ。
(1)取引の相手方に消費税を転嫁していない旨の表示
(2)取引の相手方が負担すべき消費税に相当する額の全部又は一部を対価の額から減ずる旨の表示
(3)消費税に関連して取引の相手方に経済上の利益を提供する旨の表示として内閣府令で定めるもの
(1)と(2)は、ストレートに消費税分を乗せていない、もしくは消費税分を割り引く、という表現はダメだと言ってる。その上に(3)もあるということは、「ストレートに消費税という言葉を使わない場合でもダメなケースがある」と言っているように読める。
実際、消費者庁は国会答弁で、消費税との関連が疑われる場合は、消費税の言葉がなくても禁止するという趣旨の発言をしていた。具体的にどういう表現がNGなのかは内閣府令で決める、ということだったのだが、5月8日、「消費税」の文言を含まなければOKとする、消費者庁など4省庁と公正取引委員会の統一見解が国会に提出された。早くも政府は譲歩を余儀なくされたのだ。
●手段と目的に整合性なし
そもそもこの法案、憲法違反の疑いがあるのだ。
憲法学者の渋谷秀樹立教大学大学院法務研究科教授によると、「今回の消費税還元セール禁止特措法が違憲かどうかは、経済的自由の規制という点と、表現の自由の規制という点のどちらから検証しても違憲の可能性が高い」のだそうだ。
まず経済的自由の規制という観点で検証する場合、判定の基準になるポイントは次の3点だという。
(1)規制の目的が正当性を持つのかどうか
(2)手段と目的との整合性がとれているのかどうか
(3)手段に妥当性があるのかどうか
規制の目的は言うまでもなく大手流通による下請けいじめの阻止、中小企業の保護である。これは誰が考えても正当性がある。
次に手段と目的に整合性があるのかどうかだ。中小企業いじめを禁じた2章は手段と目的がストレートに合致する。だが、3章の広告規制のほうは合致しない。当たり前だが、広告は消費者に向けて打つものであって、仕入れ先の中小企業向けに打つものではない。消費者向けに消費税分をサービスしますという広告が、直接下請けいじめを意味するわけではない。下請けからは消費税分を乗せて仕入れ、スケールメリットや他のコストの削減などによって消費者に提示する売値を引き下げる可能性はある。従って手段と目的に整合性はない。
さらに、広告規制にどこまで効果があるのかという問題もある。直接消費税という言葉を使わなければOKなのかどうかは現段階では不明ながら、単に5%値下げします、8%値下げしますという広告をダメということは、いくらなんでも無理だ。