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「相馬勝の国際情勢インテリジェンス」

中国・習近平独裁完成、失脚なら一斉抹殺も…壮絶な権力闘争=ゴマすり競争の全内幕

文=相馬勝/ジャーナリスト

 この点でいえば、李首相自体も、これまでの5年間の首相時代に極力、習氏とぶつかることを恐れ、穏便に振る舞ってきた。重要会議では首相として演説するわけではなく、単なる党中央委員でも務まる司会役を粛々とこなすなど、その姿は哀れさを通り越して痛々しくもあった。その結果、常務委員に再任されたといえそうだ。

 実際、「ポスト習近平」の党総書記候補と目されていた胡春華・広東省党委書記は常務委員会入りできず、政治局員に据え置きとなった。これまでの5年間重要な省である広東省トップを務めてきた実績からいえば極めて異例だ。

 これは今回の人事で、胡氏同様、やはり共青団のトップを務めてきた李源潮・国家副主席が定年にも満たない66歳で党政治局員に選ばれず、引退に追い込まれたのに比べれば、まだ良いほうかもしれない。李氏にとっても、やはり胡氏と同じく常務委入りを噂されていた孫政才氏のように汚職で党籍をはく奪されて罪に問われないだけ、まだましという見方もできる。なぜならば、李氏は一部企業と癒着して賄賂をもらっていたとの噂が絶えなかったからだ。今回の早すぎる引退は「罪に問わないから引退しろ」との含みがあったといえるかもしれない。

「ごますり集団」

 ところで、王滬寧、趙楽際、韓正の3氏は完全に習氏のイエスマンであり、特に趙氏は郷里が習氏と同じ陝西省であり、さらに自身が10年前に同省のトップになった際、習氏を驚かせて、喜ばせる一大プロジェクトをやってのけたことで習氏の関心をひいたのだ。

 その一大プロジェクトとは、なんと同省の富平県にある習氏の父親、共産党元老の習仲勲の墓を巨大な“陵墓”に改造したことだった。産経新聞によると、墓所と併設された習仲勲記念館の面積は約7000平方メートル、周辺の専用道路と駐車場などを入れると2万平方メートルを超え、南に小川が流れ、北に山々がそびえる美しい自然のなかにあり、風水的にも「子孫を繁栄させる」という絶好な立地(地元農民)だという。習氏の母親の斉心氏がこの墓を大変気に入り、複数回訪れたというほどである。

 まさに「ゴマすり」の典型といえまいか。下馬評でも、趙氏がチャイナセブン入りするとの情報が流れたのは10月に入ってからで、それまでは党組織部長という要職を務めていても、ほとんど無名。正直に告白するが、チャイナウォッチャーを自任する筆者でさえも、顔と名前が一致しなかったほどだ。それほど地味な存在だった。

相馬勝/ジャーナリスト

相馬勝/ジャーナリスト

1956年、青森県生まれ。東京外国語大学中国学科卒業。産経新聞外信部記者、次長、香港支局長、米ジョージワシントン大学東アジア研究所でフルブライト研究員、米ハーバード大学でニーマン特別ジャーナリズム研究員を経て、2010年6月末で産経新聞社を退社し現在ジャーナリスト。著書は「中国共産党に消された人々」(小学館刊=小学館ノンフィクション大賞優秀賞受賞作品)、「中国軍300万人次の戦争」(講談社)、「ハーバード大学で日本はこう教えられている」(新潮社刊)、「習近平の『反日計画』―中国『機密文書』に記された危険な野望」(小学館刊)など多数。

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