東京都世田谷区が、ふるさと納税に新たにメニューを2つ追加した。追加されたメニューは、宮坂区民センターの広場に展示されていた旧玉電車両を補修するための費用、もうひとつが、区立大蔵運動場の陸上競技場スタンド改築費用を集めるというものだった。
世田谷区をはじめ東京23区の自治体は、ふるさと納税制度が始まって以来、苦戦を強いられている。なぜなら、東京23区には地方都市のように豪華な海産物が獲れるわけでもなく、高級なフルーツも栽培していない。
当初、ふるさと納税は「進学や就職で都心部に上京した人たちが、ふるさとに納税できるようにすることで、郷土に恩返しをする」といった趣旨から導入が決められた。今般、ふるさと納税はその趣旨から大きく外れた。地方自治体は、ふるさと納税をいかに集めるのか、集めるためにどんな豪華な返礼品を用意するのか、といった部分に焦点が当たるようになってしまった。
豪華な返礼品を贈ることで、多額のふるさと納税を得た自治体も現れた。税収が乏しい地方の市町村では、ふるさと納税合戦が過熱している。趣旨を逸脱したふるさと納税合戦は、総務省が歯止めをかけるべく各自治体に自粛を通知するまでに至った。
しかし、いまだ東京23区などから税の流出が止まらない。世田谷区では2016年度に区民税が16億5000万円も流出。17年度は流出額が増大し、約31億円にも達する見込みだ。本来なら得られる税収が流出してしまえば、その自治体は予算を組みづらくなる。それは、行政の質が低下することを意味する。上下水道の整備やゴミの収集、駅前駐輪場の整備、待機児童の解消など、私たちの生活に直結するものは多い。東京23区は人口も多く、潤沢な税収があると思われているが、人口が多ければ社会保障費なども比例して増加する。流出額が増大するのを看過するわけにはいかないのだ。
各区の取り組み
世田谷区は、旧玉電車両の補修費等に660万円、区営大蔵運動場の改築費用等に1950万円の目標金額を設定。税の流出を食い止める対抗手段を打ち出した。世田谷区の職員は、こう説明する。
「世田谷区は豪華な返礼品で“釣る”ことに一貫して反対していますから、ふるさと納税者に豪華な返礼品を用意していません。あくまで、政策に共鳴・支持してくれる方々からふるさと納税を集めようというものです。ふるさと納税というと、ほかの自治体に住んでいる住民から集めるというイメージが強いと思いますが、自分が住んでいる自治体にふるさと納税をすることも可能です。世田谷区民が世田谷区に3万円ふるさと納税したと想定し、仮に5000円の記念品をふるさと納税者に贈っても、差し引きで世田谷区は1万1560円の増収になるのです」