トランプ大統領が当選した2016年の米大統領選で、ロシア政府がトランプ陣営と共謀して選挙に干渉したとされる疑惑「ロシアゲート」。昨年7月17日の本連載で、そのような共謀は捏造で、存在しなかった可能性があると指摘したが、どうやらそれは正しかったようだ。
米連邦大陪審は2月16日、大統領選に違法な手段を使って介入した罪で、ロシア人13人とロシアの3企業を起訴した。ロシアゲートをめぐり、ロシア人やロシア企業が起訴されるのは初めてである。
全37ページの起訴状は、元連邦捜査局(FBI)長官で、疑惑捜査を担当するモラー特別検察官が作成した。起訴状によると、被告らは14年ごろから、米国の政治体制に「不和の種をまく(to sow discord)」という戦略的な目標を掲げて活動に着手。16年ごろには、ロシアに厳しい姿勢を示す民主党大統領候補のクリントン元国務長官を標的にする方針を固め、ソーシャルメディアを使ったり集会を開いたりして中傷する一方、トランプ氏を支持する活動を展開したとされる。
しかし、ちょっと待ってほしい。そもそもロシアゲートの発端は、米大統領選中に民主党全国委員会へのサイバー攻撃が発覚し、同委幹部らのメールが流出した事件だったはずだ。米情報機関はロシア政府がクリントン氏の当選を妨害するためにサイバー攻撃を仕掛けたと断定し、主流メディアはその尻馬に乗ってトランプ批判を繰り広げた。
ところが9カ月もの捜査の挙句にまとめられた今回の起訴状には、同委へのサイバー攻撃の話はどこにも見当たらない。その代わり、ロシア人は米国政治に「不和の種をまく」ためにソーシャルメディアを使ったという。
これは、ほとんど冗談にしか聞こえない。少し記憶を呼び戻せば明らかなように、大統領選中、トランプ共和党陣営とクリントン民主党陣営は互いに激しく攻撃し合った。民主党側はトランプ氏や同氏に投票した人々に差別主義者とレッテルを貼り、罵った。わざわざロシア人が種をまくまでもなく、米国人同士の不和は十分すぎるほど募っていたのである。
ソーシャルメディアへの投稿や広告に費やされた予算は一時、1カ月に125万ドル(約1億3300万円)以上に上っていたとされる。これもトランプ、クリントン両陣営が大統領選に投じた計26億5000万ドル(約2820億円)に比べればわずかな金額にすぎない。さらに投稿や広告の多くは大統領選後に実施されたもので、25%はまったく読まれていなかった。
しかも「ロシアゲート」とはいうものの、トランプ陣営とプーチン大統領率いるロシア政府との共謀も起訴状では証明できていない。直接のつながりはもちろん、間接的な関係も薄弱だ。
たとえば起訴されたひとり、実業家のエフゲニー・プリゴジン氏は「プーチンの料理人」の異名を持つそうだが、その理由は文字どおり、同氏の経営するケータリング会社がクレムリンの宴席を請け負ったからである。かりに癒着があったとしても、軍産複合体と呼ばれる米政府と軍事産業の巨大な連合に比べれば、どう見ても恐ろしい脅威ではない。