中国の複合企業である海航集団(HNAグループ)が資金ショートの危機に瀕している。今年1~3月(第1四半期)に少なくとも150億元(約2580億円)の債務返済に行き詰まる可能性が報道されており、中国メディアは「同社の資金状況から、デフォルトと経営破綻の可能性が高い」と指摘しているのだ。
すでに、昨年11月の時点で「ウォール・ストリート・ジャーナル」が「約1000億ドル(約11兆円)規模の債務を抱えている」と報じており、中国株式市場ではHNAグループの子会社7社の株式が一時取引停止になっている。
そのためか、HNAグループは不動産などの資産売却と人員削減を進めており、全世界の従業員の約4分の1にあたる10万人前後を削減する計画も発表された。また、ドイツ最大の銀行であるドイツ銀行の筆頭株主でもあるが、同行の株式も債務返済のために一部を売却している。ただし、株式比率は9.9%から9.2%に低下したものの、「HNAグループは今後もドイツ銀行の“重要な株主”であり続ける」と表明している。
バックに王岐山?「海航集団」の正体
HNAグループは航空運送事業をメインに物流、レジャー、金融などの事業も展開する民間の複合企業だが、実態は前共産党中央規律検査委員会書記の王岐山氏が後ろ盾になっているといわれる。習近平国家主席の腹心である王氏は、昨年の中国共産党全国代表大会で最高指導部から退いたものの、現在開かれている全国人民代表大会での要職返り咲きもささやかれている。
近年、HNAグループは積極的に海外企業の買収を行っており、その投資金額は約400億ドル(約4兆4400億円)以上ともいわれる。前述したドイツ銀行のほか、アメリカの高級ホテルのヒルトン・ワールドワイド・ホールディングスの株式を大量に取得し筆頭株主になっている。
しかし、昨年、中国政府が海外への資本流出対策として一部の大企業の海外投資を規制したことにより、各企業の債務問題が浮上した。また、この背景にはアメリカの路線転換もある。
ドナルド・トランプ大統領誕生前のアメリカは、海外からのヒトやモノの流入に寛容であり、そのため国内にめぼしい投資案件がなくなった中国企業はアメリカに大量の資本を移していた。中国企業同士による買収合戦がその典型例であるが、それが結果的に買収価格の高騰を招いていたわけだ。
しかし、「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領の誕生に伴って、そうした投資環境が大きく変化した。そもそも、土地や不動産というのは自国に持ち帰ることができないため、現地に居住しない限り有効活用するのは難しい。また、高値でつかんだ物件は利回りが低くなるなど、場合によっては逆ザヤになってしまうこともあり、さらに高値で転売しない限りは投資スキームとして成立しない。
加えて、アメリカは金融業界も方針を大きく変更した。現在、HNAグループが資金繰りに困っているのも、昨年7月にアメリカの大手金融機関が「『顧客確認(KYC)』委員会の承認を得られないこと」を理由に同グループの買収案件への助言や融資を停止したことが主な要因だ。同時期に、バンク・オブ・アメリカは投資銀行に対してHNAグループとの取引停止を指示した。
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