これにより、HNAグループは海外市場におけるドルの新規調達ができなくなってしまった。それでも買収資金の全額を手元資金で調達していれば問題はないが、HNAグループはその多くを海外での債券発行などに頼っており、利払いなどの債務もあるため、一気に手元資金の流動性が失われてしまったわけだ。そして、不足分を国内の人民元市場などに頼ったものの、経営難に直面しているのが実情だ。
信用悪化に伴い資金の調達コストが上がり、高い金利が財務を苦しめる。手元資金を確保するために保有資産を売却したとしても、高値づかみした物件は売却で損失が生まれることになり、実損の発生によって財政バランスが破壊される……この状況は、安邦保険集団や大連万達集団などの複合企業も同様であり、今やHNAグループも安邦のような一時国有化がささやかれている状況だ。
また、HNAグループの場合は傘下に海南航空をはじめとする航空会社と世界3位の航空機リース会社を持っているため、さらに問題がややこしくなっている。海南航空など3社の子会社が飛行機のリース契約代金を滞納しており、同じく傘下の天津航空は今年が返済期限である一部の債務に関して期間延長を検討しているのだ。
被害を受けているのはHNAグループ内のリース会社で、債務不履行となればリース会社が損失を被ると同時に航空会社が破綻する。そして、グループ全体でも資金流動性が逼迫しているという状況だ。
中国に飲み込まれるドイツ
仮にHNAグループが国有化されれば、事実上ドイツ銀行の筆頭株主は中国政府ということになる。すでにHNAグループの経営難が表面化すると同時にドイツ銀行の株価下落が続くなど、もはや一蓮托生といっても過言ではない状態だ。
また、今年2月には、中国の自動車メーカーの浙江吉利控股集団が、「メルセデス・ベンツ」などで知られるドイツを代表する自動車メーカーのダイムラーの株式の9.69%を取得し、筆頭株主になったことが発表された。自動車業界はエンジンなどの軍事技術を開発しているため安全保障上の観点からも重要な産業であり、ほかの産業に与える影響も大きい。しかし、この状況に対して、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は「違反はない」と容認する姿勢を示している。
周知の通り、中国政府は海外企業による国内企業の買収などに関して制限を設けており、自由に行われる環境は整っていない。基本的に外交は相互主義に基づいて行われるべきであり、相手国が自由な資本の移動を認めていない場合、自国も同様の対応を取るのが自然だ。これは、不動産や株式についても同じである。
『ポスト平成ですごいことになる日本経済2.0:2020年までに生じる世界のリスクと新たな秩序』 平成から次の時代へと動き始めた日本。日経平均もバブル崩壊後の高値を更新、デフレ脱却が本格化しつつある。米中ロの冷戦復活、そして東京オリンピック開催は、昭和の高度成長期とそっくりで、歴史が再び繰り返されようとしている。この先、日本と日本経済に何が起こるのか、そして「2018年の世界最大リスク」とされた中国の動向、混乱が続く朝鮮半島の行方、分断が進む欧米の帰結は。気鋭の経済評論家が完全分析!