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損なわれる行政への信頼…麻生財務相に透ける「たかがセクハラ」「たかが森友」意識の“罪”

文=江川紹子/ジャーナリスト

問われる麻生氏の責任

 ところで、「週刊新潮」が音声を公開したケースは、森友学園への国有地売却において、財務省の公文書改ざんが問題になっている最中に起きている。

 記事には、具体的な日時は書かれていないが、「佐川が辞めたあと証人喚問までの間にちゃんと床屋行ってた。それが話題になっている」という福田氏の言葉が紹介されており、音声データのほうには「予算通ったら浮気するか」という言葉も入っている。佐川宣寿前国税庁長官の証人喚問が行われたのが3月27日、平成30年度の予算が参議院本会議で可決、成立したのが28日。それを合わせ考えれば、問題のやりとりがあったのは、佐川氏が「刑事訴追の恐れ」を盾に証言拒否を連発した27日の深夜ということになろう。

 これに対し財務省は、「私は女性記者との間でこのようなやりとりをしたことはない」とする福田氏のコメントを発表。同氏は、新潮社を相手取って損害賠償訴訟を起こす意向を示した。そのコメントの中で、福田氏は「女性記者に対して、その相手が不快に感じるようなセクシャル・ハラスメントに該当する発言をしたという認識はない」とも述べている。

 だが、セクハラに該当するかどうかを判断するのは、当該発言をした側ではない。「不快」に感じたかどうかも、それは受けた側に聞いてみなければわからない。セクハラにしろパワハラにしろ、加害者側にはまったく相手を傷つけている認識がないまま、さまざまなハラスメントを行っているケースはよくある。

 また、福田氏は音声データの声が自分のものであることは否定していない。「女性が接客しているお店」で「言葉遊びを楽しむことはある」などとしていて、風俗営業の店での会話であることをにおわせている。

 仮にそうであったとすれば、官僚による決裁文書の改ざんという、あってはならない行為について、厳しい目が注がれている最中に、官僚のトップである福田氏が、女性の接待を伴う店で、一連の問題をネタにしながら、「おっぱい触っていい?」などと女性と「言葉遊び」に興じていたことになる。このような当事者意識に欠けた態度は、これはこれで、同省に向けられた国民の不信を真摯に受け止めていないと言わざるをえない。

 つまり、これが事実なら、「週刊新潮」は女性記者へのセクハラをつくり上げる必要もなく、その通りに書くのではないか。名誉毀損があった場合のメディアへの損害賠償が高額化しているなか、「週刊新潮」がセクハラをでっち上げ、雑誌への信頼を失墜させるようなリスクの高いことを行う動機も考えつかない。なお、「週刊新潮」編集部は「記事はすべて事実に基づいたものです」とのコメントを発表した。

 いずれにしろ、こうした時期における福田氏の行状は、本人の人格や資質の問題であるだけでなく、麻生氏も責任を免れないのではないか。それは、単に任命責任というにとどまらない。

 麻生氏は、3月29日の参院財政金融委員会で、環太平洋経済連携協定(TPP11)が署名されたことについて「日本の新聞には1行も載っていなかった」と事実に反する決めつけを行い、「日本の新聞のレベルというのはこんなもん」「森友のほうがTPP11より重大だと考えているのが、日本の新聞のレベル」などと述べた。その発言からは、天下国家の大きな話に比べれば、「たかが森友」は小さい課題にすぎないという同氏の認識が読み取れる。

 問題を起こした当該官庁の責任者でありながら、平然とこのような発言をする。大臣がこのような態度であれば、財務省職員をたばねる事務次官の当事者意識が、かくも希薄なのも不思議ではない。「緊張感をもって」と訓戒を垂れる麻生大臣自身こそ、「たかが森友」意識から脱却して、緊張感をもってもらいたい。

本当に「たかがモリカケ」か

 もっとも、「たかが森友」という認識でいるのは、麻生氏1人に限らない。加計学園の獣医学部新設をめぐる問題を合わせて「モリカケ」と呼び、国会やメディアは「たかがモリカケ」より「もっと大事な問題」を扱うよう求める発言は、現政権を支持する層の人たちから、しばしば発せられる。

江川紹子/ジャーナリスト

江川紹子/ジャーナリスト

東京都出身。神奈川新聞社会部記者を経て、フリーランスに。著書に『魂の虜囚 オウム事件はなぜ起きたか』『人を助ける仕事』『勇気ってなんだろう』ほか。『「歴史認識」とは何か - 対立の構図を超えて』(著者・大沼保昭)では聞き手を務めている。クラシック音楽への造詣も深い。


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