民主党の怠慢が共和党に敗北した
コミー氏はこれについて、ABC放送のステファノポロス氏のインタビューでこう釈明している。
「もしFBIがヒラリー・クリントンのメール問題の捜査を再開することをアメリカ国民に隠していれば、彼女が大統領に選出された瞬間にillegitimate(正当性がない)になっていたでしょう」
これは一体何を意味するのか。クリントン氏がもし勝利しても、合法的に大統領になれないということである。さらにコミー氏は、こう付け加えている。
「私は特定の結果を見たいという欲望によって動かされなかった。オーマイゴッド!私は選挙結果になんらかの影響を与えたのだろうか。なんのインパクトもなかったと願いたい。傲慢に聞こえるかもしれないが、結果は変わらないだろうと言いたい」
『アメリカを動かす「ホワイト・ワーキング・クラス」という人々』(集英社)の著者であるカリフォルニア大学のジョーン・ウィリアムズ教授は、筆者の取材に対してこう語った。
「クリントン氏敗北の要因はたくさんあると思います。しかし私は、非難されるべきはクリントン氏ではなく、40年にわたり怠慢を放置してきた民主党だと考えています。民主党が手をこまねいている間に、共和党は、どの州でも接戦に持ち込む努力をして、選挙結果を色別で示す米国地図では、内陸の各州を共和党の赤に染めました。クリントン氏は共和党の熱心な努力の前に敗れたのです。私は民主党員ですが、これまで何もせずにひたすら何度も同じ過ちを繰り返してきた民主党は、われわれの恥です。
クリントン氏敗北の要因には、ロシアの介入もあるでしょう。コミー前FBI長官の書簡もあるでしょう。彼女が女性であったことも挙げられます。そして、クリントン氏が階級に対して無知であったから負けたのです」
クリントン氏のメール問題についてFBIは2回会見を行ったが、ロシアが大統領選に介入している可能性についてFBIが捜査していることは一度も表に出なかった。
カクタニ氏は書評をこう締めくくっている。
「政治的に独立していることを誇りにしていた公務員が、気づいてみるとトランプ氏にもクリントン氏にも罵倒され、歴史のもうひとつの転換点の中心に立たされたことが皮肉であるように、コミー氏はFBIを政治から遮断したかったが、2016年の大統領選というfirestorm(激しく燃えさかる炎)の真っ只中にFBIを入れてしまうハメになったことも皮肉である」
ニューヨーク・タイムズのコラムニストのひとり、フランク・ブルーニ氏は4月16日付のコラムでこう書いている。
「ジェームズ・コミーの本のタイトルは『より高き忠誠心』であるが、少なくとも部分的にはより有利な立場を放棄している。コミーが本のプロモーションをするのを見るのは、彼が落ちぶれていくのを見るのと同じである」
(文=大野和基/ジャーナリスト)