だがその主張は聞き入れられないまま、1969年、外交官として将来を有望視されていたトーマスはなぜか昇進を認められず、国務省から退職を強いられた。落胆したトーマスは1971年、自殺する。
国務省は後日、トーマスの昇進が認められなかったのは人事記録の手違いによるものと説明し、謝罪する。しかしトーマスの遺族は、国務省上層部にとってケネディ暗殺の再調査を求めるトーマスが目ざわりだったためだとみる。娘のゼルダさんはトランプ大統領に手紙を書き、ケネディ暗殺に関するすべての未公開文書を公開するよう求めたが、それは今回かなわなかった。
トーマスの悲劇は、オズワルドとキューバが共謀関係にあり、それを国務省やCIA、FBIなど政府上層部が隠蔽しようとした結果だと受け止める向きが多い。しかしすでに述べたように、その見方は説得力に欠ける。ケネディ暗殺への関与が疑われた政府上層部にとって、オズワルドとキューバやソ連の共謀は自分たちへの疑いを晴らすに都合が良く、隠す理由がないからだ。
元ワシントン・ポスト記者のジャーナリスト、ジェファーソン・モーリー氏は、トーマスが将来を断たれたのは、自分では気づかないうちに、オズワルドのメキシコ訪問がCIAの工作だという真相に迫ってしまったからだとみる。「トーマスはキャリア官僚として当然にも、国務省、FBI、CIAの上層部がケネディ暗殺の新事実に興味を抱くだろうと考えた。それは間違いだった。その結果、将来を断たれ、おそらくそのために死に追いやられた」と同氏は書く。
発生から半世紀以上たつ今も、国の安全保障を名目に、ケネディ暗殺関連文書の全貌を国民の目に触れさせまいとする米政治エリートたち。そうした隠蔽体質こそが国を危うくする。
(文=筈井利人/経済ジャーナリスト)
●参考文献
JFK documents illuminate the death of a diplomat who asked too many questions about Oswald – JFK Facts
JFK documents could show the truth about a diplomat’s death 47 years ago | US news | The Guardian
JFK Files: What the Remaining Assassination Documents May Hold