袴田事件の弁護団長、西嶋勝彦弁護士は、東京高裁の再審請求却下について語った。
「第1次再審では、最高裁が5点の衣類の引き出された状況を見て、これは一見して明らかに長期間味噌樽に漬け込まれたことは明らかであると、なんの実験もせずに、独断と偏見に基づいて弁護側の批判を退けた。それならばということで第2次再審の冒頭で、我々は実験をした。ところが予測通り、発見直前に漬け込まれたとしか見えない、味噌の色に染まらない鮮やかな赤色に近いような着衣が実現したわけです。それについて検察は、証明する当時のカラー写真が劣化してるとか、あるいは実験に使われた味噌が当時の40年以上前の味噌と同一性がないとか、そんなことを言ってきたんです」
第2次再審では、本田克也・筑波大教授が5点の衣類に付着した血痕について、「袴田さんのものでも、被害者のものでもない」と結論づけたDNA型鑑定も新証拠として出された。静岡地裁はその信用性を認め、「衣類の変色の仕方が不自然で、警察が捏造した疑いがある」と指摘していた。
「再審開始決定後、検察官がなんとしてもこの衣類の色問題に一撃を加えるために、40年前に味噌工場に勤めていた従業員から『当時の味噌の色はもっと薄かった』という発言を引き出して、発見の直前に埋めたんじゃない、1年2カ月埋まっていたとしても不思議ではない、というようなことを言ってきた。古い味噌の中に浸かっていたとしても、次から次に新しい味噌が仕込まれて新しい味噌の色が薄ければ、衣類の色も薄いというような、想像の域を脱しないような意見に飛びついて、衣類の色問題に対する私どもの実験の結果を否定したんです」(西嶋弁護士)
東京高裁の大島隆明裁判長は、本田鑑定について、「確立した科学的手法とはいえず、鑑定の結論の信用性は乏しいと言わざるを得ない」と退けた。
「実験で袴田さんと違うDNAが出てきたという客観的事実を、結局、実験に基づかない理屈ばっかりこねるような学者を使って否定しているんです。そして今不幸なことに、日本のDNAを初めとする科学鑑定の全部を握っている科学警察研究所が、大学の法医学教室を自分たちの支配下に置いている。それに抗している筑波大の本田教授には仕事を回さない、法医学界で孤立させる、そういう悪辣な手を使って、それを裁判所のなかにまで持ち込む。こういう状態にまんまと裁判所は乗っかってきたんです。