新証拠というものを個別に評価して、そのひとつだけで有罪を覆せるかどうか判断するという過去の手法は間違っている。古い証拠のなかに新しく出された証拠を投げ込んで総合評価すれば、脆弱な証拠構造のなかから不合理な点が出てきて、有罪判決が維持できないということになれば、そこに供された新証拠は再審の要件である明白性のある証拠だということになるはずです」(西嶋弁護士)
過去の判決の誤りを認めたくない裁判所
袴田さんを支えてきた、姉の秀子さんは語った。
「冤罪事件というのがわかっていて、今度の高裁の判決でございます。私たちはいつまでも高裁でもたついていられても困ります。最高裁に運んでくれるということは、進んでくれるということ、前に進むということです。生きて行かねばなりません。弟を長生きさせて、私も百までも生きてがんばっていきたいと思っております。皆様にはたいへんお世話になっております。最高裁の決定の時には本当に皆、敵に見えました。今はそれはありません。これも皆さんのご声援のおかげだと思っております」
袴田さんが殺人犯だと東京高裁が考えているのなら、再審開始取り消しと同時に再勾留するのが論理的には一貫している。それをしなかったのは、無実だとはわかっているが過去の自分たちの判決の誤りを認めたくない、そのために本人の死を待っているのではないか、という見方をする人々も多い。それに抗するには、長く健康でいる必要があるという意味のこもった「長生き宣言」に、会場には温かな拍手が響いた。
いつ、誰の身にも降りかかる冤罪
1979年に起きた大崎事件で、殺人罪で懲役10年の判決を下された原口アヤ子さんは、一貫して無実を訴えている。今年の3月に福岡高裁宮崎支部が再審開始を認めたが、福岡高検が決定を不服として最高裁に特別抗告している。同事件の弁護人の鴨志田祐美弁護士は語った。
「同じような冤罪でありながら、勇気も覚悟もある裁判官に当たったら再審の門が開く、そうじゃない自己保身に凝り固まった裁判官に当たったら再審の門は閉ざされる。これはなんなんだろう。裁判官一人ひとりの違いによって結論が違ってしまうということは、やっぱりこれは制度のほうに問題があると言わざるを得ない」
飯塚事件など九州の7つの事件で裁判のやり直しを求めている九州再審弁護団連絡会の八尋光秀弁護士、日弁連人権擁護委員会再審部会・前部会長の泉澤章弁護士は再審法改正の必要性を訴えた。
福岡高裁が再審開始を決めたにもかかわらず、検察が特別抗告している松橋事件の弁護人の齋藤誠弁護士も、被告が無実である明確な証拠があると訴えた。再審無罪を勝ち取った東住吉事件の青木恵子さんや、布川事件の櫻井昌司さんは、再審の門を開けるまでの困難さ、無実で幽閉された辛さを語った。
集会参加者は200名あまり。現在の日本で、冤罪への関心は高いとはいえない。いつ誰の身に降りかかるかもしれないのが、冤罪の怖さである。
(文=深笛義也/ライター)